コラム

事業者とフリーランスの契約

2023.05.24[契約]





【増えるフリーランスとの契約】

こんにちは。西新宿の行政書士、田中良秋です。

近年、
フリーランスとしてお仕事をされる方々が
増加の傾向にあります。
政府の調査によると、
現在の国内フリーランス人口は
300万人以上

にものぼるとのことです。
フリーランスが増えている背景には、
生計の維持やさらなる収入アップのために
副業者が増え、
また、IT技術の進歩と普及によって
オフィスでなくても自宅やカフェなど、
どこでも働くことができるようになった
ことがあるようです。

<内閣府:2019年現在のフリーランス人口試算>


こうした傾向にともなって、
サイト作成やアプリケーション開発
SEO対策やライティング
などの業務に、
フリーランスの方々を活用する
企業も増えてきていますが、
その際にもっとも多く締結されるのが、
業務委託契約でしょう。

フリーランス、企業双方が
この契約に合意、サインする際には、
注意すべきポイントがあります。
ビジネスのスタート時に発生する
業務委託契約書の契約スタイルや作成手順
などもまじえて解説します。




【フリーランスとは】

フリーランスとは、
会社などの企業、団体や組織に属さず
自身がスキルを活かして
スポット業務や案件を受けて働く方々
を言います。
この条件に該当すればどなたでも
フリーランスと名乗ることができるでしょう。

世間一般のイメージをもう少し掘り下げると、

実店舗を持たないで
スタッフもいない事業主や1人社長
自分自身のスキルやノウハウなど
を活かして収入を得る者


と言えるでしょうか。

フリーランスの約7割は
40代以上のミドルシニア層

と言われ、
エンジニアやプログラマー
デザイナーやライター、カメラマンなどとして
さまざまなスキルを強みに活躍されています。
メリットとしては、
時間の融通が利きやすく
自由なポリシーのもとに働ける

ことが挙げられる反面、
お仕事探しから受注
成果物の納品や提供まで
すべて自分自身でおこない
完結しなければならない

という側面もあります。

<中小企業庁:フリーランスになった年齢>




【メインとなるのは業務委託契約】

事業者とフリーランスが
ビジネスの取引を始めるにあた
業務委託契約を締結するのが
もっとも多いパターンでしょう。

業務委託契約とは、
一定の業務を遂行することを
他人に委託する契約です。
事業者側から見れば、
社内業務や作業を社外のフリーランスに委託する
契約となります。
※業務委託については、
 以前のコラムでもご紹介しています。
 ⇒
こちら
 
あくまで業務委託となりますので、
事業者とフリーランスの関係は雇用ではなく、
委託者と受託者という、対等な立場となります。

業務委託契約は、
受託内容や就業スタイルによって
次の3種類にわかれます。


①委任契約
法律行為に該当する業務を委託する契約
を指します。
法律行為とは
私たちの権利や義務を発生させる行為
で、たとえば、
債権や債務がくっついてくる行為
と表現すれば、
わかりやすいでしょう。

この契約スタイルでは、
成果物の有無や業務の結果
にかかわらず、報酬が発生する

受任者は
仕事や作業の依頼を拒否できる

という特徴があります。

仕事や作業において作業者が拒否できない
仕事の場所や時間、方法などが指定される
雇用契約とくらべると
自由度が高いことがうかがえます。

ただし、
受任者には善管注意義務があるため
委任者のために
定められた仕事を丁寧におこなう

必要があります。
※締結した業務委託契約内容の実態として
 作業内容や労働時間・場所などにおいて
 指揮命令下にあるような場合は
 雇用契約とみなされ、
 労働法上の保護を受けられる
 ことがあります。


②準委任契約
①の委任契約に準じて
定められている契約スタイルで、
法律行為以外の事実行為を委託できます。
事実行為とは、
法律的な効果のない業務や作業を指し
たとえば、
PC入力作業や書類作成作業
コンサルティングやセミナー講義
システム管理
などが該当します。

この契約スタイルも
成果物の有無や業務の結果にかかわらず
業務遂行ベースで報酬が発生します。
※準委任契約については、
 以前のコラムでもご紹介しています。
 ⇒
こちら
 
③請負契約
請負契約とは、①や②とは反対に
プロセスに関係なく、
仕事の完成と成果物の提出を約束して
報酬を支払う契約
です。
そのため、
納期や希望の成果物を守らず
途中で頓挫した場合
報酬を受け取ることができません。

※委託と請負の違いについては、
 以前のコラムでもご紹介しています。
 ⇒
こちら
請負契約における
 納品物が欠陥品だった場合、
 依頼者は契約不適合責任を追及でき、

 修理や代替品の請求
 代金減額や契約の解除
 損害賠償請求が可能です。

 契約不適法責任については、
 
こちらのコラム
 詳しくご紹介しています。

 
これらから、

結果よりプロセス重視の場合は
委任(準委任)契約
プロセスより結果重視の場合は
請負契約


がフィットすると言えるでしょう。

この点、
事業者の立場としては、
納期を守るのはもちろん、
仕事の完成を最大限重視して
フリーランスに仕事や作業を依頼する
ことが多く見られます。
そのため、
フリーランスとの業務委託契約のほとんどは
費用の発生時期
支払時期
検収方法
著作権

など
定めなければならない事項に合わせて
法律上、
請負契約や委任契約のどちらか
または両方がミックスしたもの

といえます。

業務委託と請負がミックスする契約の場合、
契約内容はどちらかの内容をベースにして、
仕事のシチュエーションに応じた特約をつけて
調整することになります。
※特約とは、
   契約における当事者間の特別な約束ごとで、
 法律ルールよりも優先的に適用されます。





【契約を結ぶことは大切】

多様な働き方や自由な裁量を活かせる
フリーランスに業務をお願いすることは、
比較的簡単で
口頭だけでの依頼や約束もしやすい
かもしれません。
実際、法律上口頭での契約は成立し得ます。
※口頭での契約については、
 以前のコラムで詳しくご紹介しています。
 ⇒
こちら
 
しかしながら、
ここであらためて契約を結ぶことで
次のようなメリットがあります。

①クリアな契約
仕事の依頼において
どれだけ丁寧に話し合っても、
口頭のみでは
「言った・聞いていない」など、
後からボタンの掛け違いが
起きてしまうリスク

が高まります。
特にリスクのおよぶ範囲が
著作権や報酬、損害賠償などに
発展してしまうと、大変です。
トラブルの芽を未然に摘んでおくためにも
契約事項として合意することが大切です。

②信頼関係の構築
委託内容の解釈が
当事者で異なってくると
どちらかが途中で契約を投げ出したり
業務の遂行が滞るおそれがあります。
契約という形に落とし込むことで、
お互いが
気持ちよく業務遂行に進むことができ
信頼関係のさらなる構築につながります。

③契約実態の裏付け
業務遂行中にトラブルが起きた場合、
特に口頭のみの約束の場合は、
言ったこと・言わなかったこと
を証明する手段がありません。
契約を結ぶことによって、
トラブルが発生したとしても、
契約書に記載された内容に沿って
対処することで、
裁判や損害賠償請求への発展を防げます。
また仮に、
損害賠償請求や裁判になったとしても、
契約書を証拠資料とすることで、
正当性をアピールできます。




【契約上チェックすべき法律】

フリーランスと取引し、
業務委託契約を締結する場合は、
次の3つの法律をチェックして
契約書を作成する必要があります。

<文化庁:適用関係法令のまとめ>


①独占禁止法
取引関係にある発注者が事業者である場合、
相手方が
法人/フリーランスを問わず
独占禁止法が適用されます。

②下請法
業務委託契約における
委任者の資本金が
1,000万円を超える場合、
相手方の属性を問わず下請法が適用されます。

<文化庁:独禁法及び下請法におけるフリーランスと事業者との関係>


③労働関係法令
フリーランスとして業務遂行にあたっても、
委任者から実質的指揮命令がある場合があり、
これが雇用に該当とみなされる場合、
労働関係法令が適用されます。

経済産業省は2021年3月、
内閣官房や公正取引委員会、
厚生労働省などと連名で
フリーランスとして
安心して働ける環境を整備するためのガイドライン

を公表しました。
委任者側は、このガイドラインの遵守が求められます。
厚生労働省:フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン
※今年4月24日には
 フリーランス保護新法も成立し、
 事業者は契約内容の明示義務が課せられます。
 来年秋ごろまでに施行される予定です。




【業務委託の際のポイントは?】

事業者がフリーランスと取引し、
契約書を作成するにあたって、
行政書士として
私が着目すべきポイントを挙げてみました。

①優越的地位の濫用
現実的に、
事業者とフリーランスとでは、
取引における情報量や質、交渉力の面
立場に格差があることが想定されます。

その際、フリーランスは、
事業者との取引条件に問題ないかどうかを
自主的・合理的に判断できない結果、
取引条件が
事業者に一方的に有利になりやすい

という側面があります。

この場合、
事業者がこのような優越的地位を利用しつつ
フリーランスに対して不利益を与えることは、
不公正な取引方法のひとつである
優越的地位の濫用として、
独占禁止法上規制されています。

たとえば、
事業者が多数のフリーランスを対象に
不利益を与える場合、
特定のフリーランスに対して
強度の不利益を与える場合などは、
公正な競争を阻害するおそれがある
と判断される可能性が高いです。

②取引内容の見える化
事業者は、取引条件を明確にして、
フリーランスに伝え、
双方が合意する必要があると考えます。
そのために、
契約書などの書面に残すことが大切です。

仮に、
書面化されなかったり
書面上の取引条件が不明確な場合
事業者は、
後から取引条件を
自由に変更しやすくなってしまいます。

このような状況は、
いわゆる①にあたる行為を
誘発しやすくなります。

また、
取引が下請法の適用対象となる場合は
事業者がフリーランスに対して、
取引条件を記載した書面を交付しない時点で
下請法違反
となりますので、注意したいところです。

③受任者の労働者該当性
事業者の取引相手として
フリーランスが
労働基準法上の労働者にあたる場合
事業者との関係では
労働基準法の適用対象
となります。
そうすると、事業者は、
賃金や労働時間などを決めるとき、
労働基準法に抵触しないように
配慮しなければなりません。

<文化庁:労働基準法における労働者の判断チャート>


ちなみに、
フリーランスが労働者にあたるかどうかは、
次のような点から判断されます。






【業務委託契約における対策】

①クリアな仕事の内容
事業者とフリーランスで
業務内容の認識のズレは
ないようにしたいところです。
特に仕事の完成においては、
フリーランスが責任を負う請負制
とするのが一般的でしょう。

業務を委託する前提としては、
フリーランスが盛るスキルや知識、
ノウハウを活かすこと必要ですので、
器材や端末などについては
基本的にフリーランスが用意し、
必要な情報は事業者が提供することが
想定されます。

これらを具現化するのはやはり、
契約書です。
委託内容や責任範囲を
できるだけ詳細に記載しましょう。
詳細に記載しきれない場合は、
関連業務や付随業務を含むものとする
などの記載も良いでしょう。

ただし、
仕事の進め方については
フリーランスに決定権がありますので、
企業がフリーランスに対し
指揮監督と受け取れるような指示や要請
は避けましょう。

②報酬明細と契約書のセット
業務委託契約を結ぶ際、
報酬に関することを曖昧にしておくと、
後から
取り決め通りの報酬が支払われていない
と、
トラブルになることが考えられますので、
報酬は契約書にしっかり記載しましょう。
報酬を契約書に記載する場合、
支払総額だけですと、
どのような条件で
報酬などが支払われるか分かりません。
原稿用紙1枚○○円
成果物1件納品で○○円

などのように、
報酬の明細を契約書に記載するのも有効です。

③さまざまな期限設定
委任案件の納期や報酬の支払時期を
契約書に明確に記載することで、
フリーランスのモチベーションや
事業者のスケジュールマネジメントに
良い影響が出ます。
報酬の支払いにおいては、
支払方法と手数料の負担先についても明記
すると、トラブルを未然に防げます。

④経費支払条件
業務遂行にあたって、
交通費や通信費、交際費など
の必要経費が発生する場合、
受託者であるフリーランス負担にすると
負担が大きくなってしまいます。
費用の負担先は明確にしたうえで、
その必要性や金額ボリュームから
負担先を協議のうえ
契約書に記載しましょう。

⑤キャンセル料、着手金
④に付随して気に掛けるべき点が、
業務を遂行できない場合や
委任者の都合による契約キャンセル料、
報酬の着手金
です。
双方とも高額過ぎると
信頼関係に影響しますし、
低過ぎても
設定の必要性に疑問が生まれますので、
双方が納得できる金額を
協議のうえ決定しましょう。
具体的な金額、または計算根拠を設定し、
契約書にその旨記載して
契約の途中解除に備えると安心です。

⑥損害賠償対応
事業者とフリーランスとの
業務委託において
トラブルとなるのは、
納期遅れ(中途キャンセル含む)
成果物の不具合or希望スペック違い
情報漏洩
受任者の再委託

でしょう。
これらの影響で
委任者がダメージを受けると、
受任者に対する損害賠償発生リスク
があります。
損害賠償となり得る要件や責任範囲
賠償額や支払期限など
について
事前に契約書に記載しておく
ことが大切です。
フリーランスの立場としては、
事業者の要求をそのままのむのではなく、
できる限り
賠償金を低くできないか交渉する
方が良いでしょう。

⑦秘密保持の遵守
事業者は
業務委託契約を締結する際、
委託業務の中で知りえた情報やノウハウ、
技術の流出や流用は防ぎたい
ものです。
事業者がうっかり渡した情報が
重要事項として流出する

ということもあり得、
フリーランスを守るためにも
重要な情報となりますので、
事業者からフリーランスへ
一定の秘密保持を求める場面
が想定されます。

秘密保持として提示された
情報範囲や内容が明確であると同時に、
過剰なものでないか確認のうえで、
契約書に記載する
のが良いでしょう。

⑧瑕疵担保期間
フリーランスに、
成果物に対する責任を負担させる
請負契約がベースとなる場合、
納品された成果物に
不具合や欠陥、ミス(いわゆる瑕疵)
があると、
その部分をリカバーする責任
=契約不適合責任と期間を追及

しなければなりません。
契約関係によって
その対象期間を設定することはデリケート
なものとなりますので両者協議のうえ、
契約書に記載しましょう。

⑨著作権の譲渡可否
たとえば、委託業務の成果物が
イラストや動画、楽曲やアプリケーション
などである場合、
その成果物の著作権をどちらが持つのか
を決めておきたいところです。
一般的に著作権は
創作と同時に発生し
制作者=フリーランス
にその権利があります
が、
委託契約上、
事業者が
著作権の取り扱いを主張する場面も想定

できます。
著作権の取扱いが適切に行われるよう、
事前に協議し、
著作権を譲渡するのであれば、
その旨業務委託契約書に記載しましょう。
フリーランス側が
著作権をキープしたい場合は、
著作権の範囲を明確にしましょう。

⑩契約の有効期限を明確にする
業務委託契約の締結にあたって
契約の有効期限も大切な項目です。
たとえば、
成果物を1件納品するごとに終了する
スポット契約とするのか
具体的な期間を定める
包括的な契約とするのか

を決めましょう。
双方のの信頼関係などを考慮して
長期の契約とする場合は、
契約期間を自動更新とする
のも良いでしょう。

⑪所轄裁判所の設定
業務委託契約書を取り交わしたとしても、
やはり、万が一のトラブルは
想定しておかなければならないでしょう。
もし裁判となれば、
起訴する裁判所を定めておく必要があります。
トラブルなんて絶対起きないからと、
裁判所の位置を軽視すると
後々大変な思いをすることもあります。
裁判所に通うために
時間や労力、費用がかからないよう、
委託者から指定された裁判所が
所在地や自宅から近い場所にあるよう指定

しましょう。




【スムーズな業務のスタートに】

ビジネスには
巨額のコストや
たくさんの人々が関わります。
フリーランスに依頼業務の中には、
一筋縄ではいかないものも
あるかもしれません。
そんなとき、あらゆるケースを想定して
業務委託契約書などの書面を必ず残し、
双方が合意することによって、
事業者側はスムーズに安心して
仕事の依頼ができるだけでなく、
フリーランス側も気持ちよくお仕事ができ、
権利も守られます。

形式的なドラフトそのまま転用して、
契約書に署名や捺印をしてしまうと、
後々思いもしなかったトラブルに
巻き込まれることもあります。
契約書を用意する際は、
本コラムでご紹介した対策を
参考にしてみて下さい。

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幅広くサポートさせていただいております。
トラブルとなるその前に、
専門家を是非ご活用ください。