コラム

【民法改正】嫡出を「推定」する

2022.11.04[行政書士・業務]





【親子関係の重要ルールが変わります】

こんにちは。西新宿の行政書士、田中良秋です。
2022年10月14日、
嫡出推定に関する民法改正案が
閣議決定されました。
このルールは
明治時代から120年以上続いていましたが、
時代の変遷と相まって、
今回、ついに本格的な変更に進んでいきます。

予定される具体的な改正ルールの内容と、
今後の見通しを確認しておきたいところです。




【嫡出の「推定」】

法律上、結婚している夫婦の間に
生まれた子どもを、嫡出子と呼びます。
反対に、
法律上、結婚していない男女との間に
生まれた子どもは、非嫡出子と呼びます。
非嫡出子を父の子と認める
認知という関連ワードは
日常でもよく耳にしますね。
※認知には胎児認知任意認知があります。
 前者は母の同意が必要です。


嫡出子と非嫡出子では、
扶養や相続といったライフイベントにおいて
その扱われ方は大きく差があります。

生まれた子どもが
嫡出子にあたるのかどうか

については、民法で
婚姻中に妻が懐胎していれば
夫の子と推定できる

というルールになっています。
※「推定する」の法律的意味については、
 
以前のコラムでも詳しくご紹介しています。
 
つまり、
夫、妻として結婚した男女が
正式に離婚成立するまでの間に
女性が子どもを妊娠した場合、

婚姻関係にあった夫が
その子の父親であろうと判断できる

ということになります。
これを、嫡出推定と呼んでいます。

嫡出推定は元々、
親子の遺伝的関係を逐一確認せずとも
子の父親を早期に確定するための法律ルール

として定着してきました。

このルールだけですと、
たとえば、
夫と妻との間に性生活がないなど
妻にとってみれば明らかに
夫の子と心当たりがない場合であっても、
夫はその子どもの父親と扱われてしまいます。


そこで、夫は
子の出生を知った時から1年以内に

嫡出否認の訴えを提起できる

というルールが備わっています。

これら現行ルールにおいて
問題視されていたのが、
無戸籍の子の増加
です。

たとえば、
離婚したばかりの女性が
元夫とは別の男性との子を出産した場合でも
戸籍上の父は元夫となってしまいます。

これを望まず、
女性が子の出生届をしない結果
その子は無戸籍者となってしまう

という事例が
2000年代以降に社会問題
としてあげられ、
法ルールの見直しの求めが高まりました。

<男女共同参画局:無戸籍者数の推移>


もしも、子が無戸籍者になると、
身分証明手段がなく、
通院や就学、予防接種などが
スムーズにできない
信用上さまざまな契約を結びづらい

選挙権がない
国のサポートを受けられない

など、
日常生活に大きな影響をおよぼします。
※市区町村によっては、
 無戸籍者に対する救済措置があります。


ちなみに、
夫婦間に性生活がなかったことが
客観的に明らかな場合
夫の子であるという推定までは及ばず
夫による嫡出否認の訴え提起は不要

とした判例があります。

ただし、
夫の子と推定されなくとも
戸籍上は夫の子となる

ため、
夫がこの判断に納得がいかない場合は、
裁判所に
親子関係の不存在確認の訴え
をすることになります。

ちなみに、この嫡出推定には、
女性の再婚禁止期間
という、
子どもの誕生時期と嫡出推定の重複を回避
するための関連ルールが規定されています。
2016年6月には、この期間は
離婚から6か月
から
離婚から100日
に短縮改正されています。




【もうすぐ改正!新ルール】

嫡出推定は
古く明治時代より生き続けるルールで、
元夫の子と安易に推定されるのを避けるために
規定されました。

今までご紹介してきた現行ルールは、
以下のとおり法律で定められています。

女は、前婚の解消又は取消しの日から起算して100日を経過した後でなければ、再婚をすることができない。
2 前項の規定は、次に掲げる場合には、適用しない。
一 女が前婚の解消又は取消しの時に懐胎していなかった場合
二 女が前婚の解消又は取消しの後に出産した場合
(民法第733条)


妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。
婚姻の成立の日から200日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から300日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。
(第772条)

第733条第1項(=再婚禁止期間)の規定に違反して再婚をした女が出産した場合において、前条の規定によりその子の父を定めることができないときは、裁判所が、これを定める。
(第773条)

夫は、子が嫡出であることを否認することができる。
(第774条)

このルールが、2022年10月14日、
改正を目指すべく閣議決定
されました。
今後、改正ルールは、
開会中の臨時国会に提出のうえ成立を目指す

ものとなります。

現行ルールと改正ルールの違いを
一覧にしてみました。

女性の再婚後に子が生まれた場合には、
再婚した夫(=現夫)の子と推定
する
ことに加えて、
嫡出推定の否認権者の実質的範囲を
母子にも広げ

無戸籍の子を減らすため
一定の効果が期待できるものとなります。

離婚してから
300日以内に生まれた子の推定ルール

については、
女性が再婚しない場合もあり得るため
現状キープとなります。

嫡出推定期間を見直したことによって
元夫と現夫の推定期間の重複がなくなり
女性の再婚禁止期間は完全撤廃となります。

このほか、
しつけを口実とした児童虐待を防ぐため
子に対する懲戒権の規定の撤廃
といった
現代にさらに合理的、現実的にフィット
する内容となります。
※これまでにも
 元夫の子の嫡出推定においては、
 その子が離婚後300日以内に生まれても
 医師が作成した
 「懐胎時期に関する証明書」
 を提出した場合には
 推定にはおよばない

 とする運用がとられてきました。
(法務省民事局長平成19年5月7日付通達)




【ネクストステップへの課題】

嫡出推定ルールは
このたび改正に向かいますが、

女性が救済されるためには
法律上結婚をしていなければならない

という課題が残る内容となりました。

子どもと血のつながった父親との死別や
女性と第三者との結婚など、
女性が法律婚できない理由があるうえで
女性は引き続き法的救済を受けられず、

出生届をためらう
可能性もあります。

また、
夫のDVや虐待などをおそれて
離婚すらできない場合
子の出生届を出せない

といったことも考えられ、
さまざまな価値観と多様性に対して
まだまだ大きな壁があると感じます。

どのような環境で
どのようにこの世に生を受けたのか
にかかわらず、
すべての子どもが平等に扱われるように

今後も考えていくべきと考えます。




【改正ルールの施行はもうすぐ】

今後、嫡出推定は正式に改正に進みます。
正式に成立すれば、
公布から1年半以内に施行され
施行日より後に生まれた子どもに
適用となります。


その内容は、
親子という関係の構築において
まだまだ法律上の課題が残されていますが、
改正によって、またひとつ、
ステップアップできていることは確かです。

生まれてきた子どもの親が誰なのか
というのは、
親にとっても、その子にとっても、
とても大切なことです。
子のアイデンティティーはもちろん、
成長する子の人生にも大きく影響します。

いろいろな事情を考慮してこそ
これまで続いてきた歴史のあるルールですが、
時代に即した変容を
有識者の方々が検討してきたことが
形になっていくことは
とてもすばらしいことではないでしょうか。
その変化の瞬間を、
私も法律に関わる者として、
楽しみに見守りたい思っています。