コラム

【エンタメ業界の】エージェント契約

2023.11.01[契約]




【『個』が試される!エージェント契約】

こんにちは。西新宿の行政書士、田中良秋です。

巷で連日、
芸能人の契約について多く報道がされています。
ビジネスの場面に限らず、
これらの報道を目に、耳にしない日はない
と感じる一般の方も多いのではないでしょうか。
東京新聞:スマイルアップ社(旧ジャニーズ事務所)の報道
東洋経済:スマイルアップ社のエージェント契約記事
 
これらの報道で注目されているのは、
アーティストやタレントと芸能事務所が
その契約スタイルを、
マネジメントからエージェントに切り替えるか
というところです。

じつはこの契約スタイル、
日本の芸能界全体でもまだまだ馴染みはなく、
実際にこの契約が結ばれているケースは数少ない
のが現状です。

エンタメにおけるエージェント契約とは?
またほかに選択できる契約スタイルは?
それぞれの契約スタイルの違いは?
を、解説します。




【エージェント契約とは】

エージェント契約とは、
芸能事務所または業務サービス会社が
エージェントとなり
アーティストやタレントの業務範囲を
限定して代行、サポートする

契約スタイルです。

たとえば、
芸能関係者が本来おこなわなければならない
営業
出演条件の交渉
ギャラの請求

などの業務を個別的に限定して
エージェントが代行し、
それ以外の
現場移動
スケジュール調整
トラブル対応
確定申告

などは、
芸能関係者自身が
自分の責任と負担で対応

するもので、
芸能関係者に関わる業務のサポートを
バラバラにアウトソーシング
(代理権の授権or委任)
された契約スタイル

といえば、
わかりやすいのではないでしょうか。

この場合、
エージェント契約を取り交わす
芸能関係者は個人事業主となる
場合が多いです。

ギャラに関しては、
芸能人関係者と事務所が分けることはせず、
芸能関係者がエージェントに
業務報酬や手数料を支払います。


代行業務の具体的な内容や範囲は、
当事者が協議のうえ決める
ことができます。
たとえば、
請求関連業務だけを代行依頼し、
そのほかの営業などは自分でおこなう
とするのでもOKです。

芸能関係者がエージェント
自分に有利な形で
営業
ギャラ交渉
契約締結
スケジュール管理
マネージャー派遣
など個別業務をおこなう会社の中から選ぶ

ことができます。

ちなみにアメリカのショービズでは、
エージェント契約はなじみの風習
となっており、
多くのハリウッド俳優やアーティストが
この契約を結んで活躍しています。







【エンタメ業界におけるほかの契約スタイル】

芸能関係者が、
日々の業務をおこなうにあたっては、
エージェントが介入する以外にも
次のように
取り交わす契約や契約相手が異なる
ことがあります。

<マネジメント>
現在の日本の芸能界で
芸能関係者が取り交わす契約の大半は、
この契約スタイルであると言われています。

芸能事務所
所属する芸能関係者をマネジメントする
立場
として、
広告代理店や放送局(テレビ、ラジオ)、
コンテンツ会社やキャスティング会社へ
営業活動をし、
契約・ギャラ交渉から
スケジュール管理やトラブル対応まで
芸能活動における一連の業務のすべて
をおこないます。
芸能関係者とは
雇用関係またはその類似関係を持ち、
芸能事務所が上の立場となります。

芸能関係者はマネジメント会社に
必要な業務対応をまかせることで
芸能活動にのみ集中することができます。
反面、
オーディションや顔見せ、ロケや収録などには
マネージャーと一緒に行動して
営業することが多いため、
スケジュール面の融通が効かず
芸能関係者自身の
仕事やキャスティングの選択権は少ない
(芸能事務所が決めた仕事しかできない場合あり)

傾向にあります。
※芸能関係者の知名度や実力によっては、
 営業における自由裁量を認める
 旨の契約事項とすることもできます。
※マネジメント契約解除後、
 芸能関係者側の権利の行使が見込めず、
 裁判となった事例もあります。

 ⇒芸能人の芸名使用をめぐる裁判報道

また、ギャラにおいては、
営業や一連の業務を一任する
芸能事務所との配分にしたがって
自分自身の手取りが決まる
結果、
手取りのギャラは少なくなることもあります。
※契約方針によっては、
 ギャラ制ではなく、
 ビジネスマンのような給料制の場合もあります。


契約期間についてはさまざまで
芸能事務所の方針や
芸能関係者の知名度、実力なども加味して
決定します。



<独立>
これは、契約スタイルではなく、
芸能関係者がどの会社とも契約を結ばず
または
事務所から独立して
自身が個人事業主または法人を設立して
活動する
ケースを指します。
メディアでは
芸能関係者が「個人事務所」を設立
と報じることも多く、
芸能関係者の
パーソナルブランディングが強い場合に有効
で、
と考えます。
また、
インフルエンサーやYouTuber、TikToker
に多く採用の傾向がみられます。

営業にあたるマネージャー、経理関連スタッフ
などは芸能関係者が自分で雇い、
自身は経営者として
営業からギャラ請求を自分でおこないつつ
プレイヤーやパフォーマーとしても活躍します。
さらにはSNSやコンテンツなどの展開
を見せたり、活動範囲も幅広く見込めます。




【法律上の注意ポイント】

芸能関係者と芸能事務所またはエージェント
が取り交わす契約において、
私が行政書士の目線で
気に留めたいと考える法的ポイント
を5つ、リストアップしてみました。

①契約の自由度
民法では、
契約においては
当事者が自由な条件で
自由に内容を定めることができる

というルールがあります。

何人も、法令に特別の定めがある場合を除き、契約をするかどうかを自由に決定することができる。
2 契約の当事者は、法令の制限内において、契約の内容を自由に決定することができる。
(民法第521条)


②契約関係
契約を結ぶにあたって、
芸能関係者は芸能事務所やエージェント
に対して、
自信の業務を委託することになります。

委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。(民法第643条)

このうち、
許認可申請や会計手続きなどの
法律行為以外を依頼する場合は
法律行為以外の特定業務の委任
=準委任契約が前提
となります。

この節の規定は、法律行為でない事務の委託について準用する。(民法第656条)

③契約の有効性
①の契約自由の原則が存在するといっても、
当事者間に一種の力関係がある場合は
当事者のどちらかが有利になり、
また不利になることはあり得ます。

この点、民法では、
当事者の一方の
権利や利益を著しく損なうような契約は
社会的常識から逸脱して
公序良俗に反するため無効

となることがあります。

公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。(民法第90条)

想定シーンとしては
芸能関係者の責任(ドタキャン、スキャンダル)
による契約不履行となった場合の
契約の継続可否

などが挙げられます。

④労働条件
芸能事務所やエージェントと契約を結ぶ
芸能関係者は、
実質的な労働者として指揮命令を受ける

ことになります。
そうすると、
使用者から見て下の立場となるため
拘束時間
活動場所や用意される設備
ギャラの最低保証額や支払時期

などの労働条件には、
十分に留意する必要があると言えます。
営業案件のためのレッスン、
トレーニングにおける手数料などの控除可否
なども
チェックをしておきたいところです。

労働条件は、労働者と使用者が、対等の立場において決定すべきものである。(労働基準法第2条)
使用者は、暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によつて、労働者の意思に反して労働を強制してはならない。(労働基準法第5条)
労働契約は、期間の定めのないものを除き、一定の事業の完了に必要な期間を定めるもののほかは、三年(次の各号のいずれかに該当する労働契約にあつては、五年)を超える期間について締結してはならない。(労働基準法第14条)
期間の定めのある労働契約(一定の事業の完了に必要な期間を定めるものを除き、その期間が一年を超えるものに限る。)を締結した労働者(第十四条第一項各号に規定する労働者を除く。)は、労働基準法の一部を改正する法律(平成十五年法律第百四号)附則第三条に規定する措置が講じられるまでの間、民法第六百二十八条の規定にかかわらず、当該労働契約の期間の初日から一年を経過した日以後においては、その使用者に申し出ることにより、いつでも退職することができる。(労働基準法第137条)


ただし、次のような場合は、
芸能関係者は労働者にあたらないこともあり得ます。


労働省:芸能タレント通達

⑤優越的地位の濫用
契約当事者として
芸能関係者と
芸能事務所またはエージェントとの間には
営業力や規模の違いによって、
どちらか一方が不利となる場合もあり得ます。
そんな場合、
立場的に有利な方が
一方的なルールや条件を迫ると
独占禁止法違反
となるおそれがあります。

事業者は、不公正な取引方法を用いてはならない。(独占禁止法第19条)
この法律において「不公正な取引方法」とは、次の各号のいずれかに該当する行為をいう。
自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に、次のいずれかに該当する行為をすること。
イ 継続して取引する相手方(新たに継続して取引しようとする相手方を含む。ロにおいて同じ。)に対して、当該取引に係る商品又は役務以外の商品又は役務を購入させること。
ロ 継続して取引する相手方に対して、自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること。
ハ 取引の相手方からの取引に係る商品の受領を拒み、取引の相手方から取引に係る商品を受領した後当該商品を当該取引の相手方に引き取らせ、取引の相手方に対して取引の対価の支払を遅らせ、若しくはその額を減じ、その他取引の相手方に不利益となるように取引の条件を設定し、若しくは変更し、又は取引を実施すること。(独占禁止法2条9項5号)





【結ぶべき契約は?】

エージェント契約とマネジメント契約、
また独立は、
それぞれメリットとデメリットが異なります。
各スタイルの違いを
次のようにまとめてみました。



経済的に不安や執着がなく
または芸能活動に集中したいため
面倒なことはまるっとお願いしたい場合は
マネジメント契約

部分的に自己管理はできるorしたいが、
いざというときに会社のサポートが欲しい場合は
エージェント契約

セルフプロデュースに自信があり、
多少のリスクをとっても
希望の仕事やギャラを自由に求める場合は
どの契約を結ばずに、独立

といった具合に、選択肢が分かれるでしょう。

今回ご紹介しているエージェント契約
を選択する経緯や理由、事情として、
やはりフォーカスされる重要なものとしては
ギャラがあります。
アウトソーシングする業務の範囲が小さければ、
コストパフォーマンスが良く、
高い知名度で営業活動をおこなうことによって
エージェントを通さずに
個別で案件を獲得できるためです。




【今後の傾向見通し】

昨今話題となっている
芸能事務所をめぐる問題をきっかけとして
今後は
活躍される芸能関係者の皆さまのはたらき方
所属先に対する考え方は多様化すると考えます。

また、その活躍の場も、
既存のメディアに加えて、
SNSやYouTubeなどと増えてきていることから、
芸能事務所に所属するというスタイルから
インフルエンサーやYouTuber
に代表されるように、
個性やプロデュース力をもって
活躍のステージを拓き
エージェントと組んで自由に活動するスタイル
が主流となる可能性も広がります。

なによりも大切なのは、
N契約当事者がその契約内容を把握し、
社会にいる立場として、
責任ある行動と仕事の遂行を
果たせることでしょう。

その先に、

芸能に生きるすべての皆さまが
幅広く自由な選択ができ
最大限の活躍ができる未来


となると、いいですね。




【エンタメの光がより輝くスタイルを】

エージェント契約やマネジメント契約は
それぞれにメリットとデメリットがあります。
芸能関係者の皆さまにとって
どちらが良いのか、また独立をすべきかは
エンターテイナーは
表現や魅力がそれぞれ違うように、
今後はその活躍のしかたや
契約相手との関係性によって
多岐に渡ることでしょう。
アメリカのように、
日本でもエージェント契約が主流となるのかは
今後に注目したいところです。

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