コラム

【リピート取引に有効】取引基本契約書

2023.02.15[契約]




【繰り返す取引に活用したい契約スタイル】

こんにちは。西新宿の行政書士、田中良秋です。
お得意先からのリピートのご依頼により
今後も取引が続くと、
取引対象の商材や発注数、単価など
取引条件によっては、
前回のご依頼と同じ
または共通する決まりごとが多い
のではないでしょうか。

このようなときに、毎回契約書を作成して
サインや捺印をする行為は、
取引当事者双方にとって面倒ですね。
そこで、おすすめしたいのが、
取引基本契約書の締結です。

反復継続する取引において重要かつ便利な
この契約の内容と契約書作成時の必要条項を
あらかじめ知っておくと
ビジネス上非常に便利です。



【取引基本契約書とは】

ビジネスにおいては、
契約締結後に発注や依頼が1度きりでなく、
複数にわたって継続される、
いわゆる反復継続的取引
となることがよくあります。
同じ取引相手と
同じような取引を続ける場合に
毎回、最初から契約書を準備するのは
手間となってしまいます。

このような場合は、
継続的取引をあらかじめ想定して、
今後の個別取引に共通する合意事項を
包括的にまとめた契約書を使用できます。
この契約書こそが、
取引基本契約書
となります。

取引基本契約の性質を持つ契約書は
そのタイトルにしばられることはありません。

そのため、契約書のタイトルが
取引基本契約書とは限らず、
もしかすると
業務委託契約書や売買取引契約書
などであるかもしれません。
それでも、
契約書のタイトルが定まらないことによって
どれが取引基本契約書なのかわからなくなる
のでは、
契約内容が整備できなくなってしまいます
ので、
契約書のタイトルはわかりやすく
取引基本契約書とする方がベターでしょう。

これに対して、
変動しやすい契約条件やイレギュラー事項は
個別の契約書を用意することで、
スムーズな取引が可能になります。

お客さまのご依頼によって
基本取引契約書を作成するうえで
私が大切にしているのは、

建前だけ整えるのではなく
実質的な内容とする


ことです。

たとえば、売買契約を結ぶにおいて、
現時点で商材が完全に用意できない
あるいは納期が未定
契約金や着手金の獲得だけを目的にする

など、
実質をともなわない基本取引契約書を
先に作っても
買主にとっては
商材の確保が担保できず
商流の停滞を招く
リスク
が大きくなり、ひいては、
買主の不信感をかってしまい
そもそもの契約自体が破綻しかねない
でしょう。

また、
契約書を書面で取り交わす場合は、
印紙も必要となりますので、
取引基本契約書の内容が有効でない場合
事業者にとっても経費ロス

となりかねません。




【取引基本契約書の作成者】

法律上、契約書の作成者は
定められていませんので、
契約当事者のどちらでもOKです。

ただし、
相手方に作成してもらう場合、
自分にとって不利な契約条件となるおそれ
もありますので、
作成された契約書案上
自分にとって不利な条件がないかどうか
のリーガルチェックは必要でしょう。
ちなみに、
下請法の下請取引に該当する場合
発注者側に書面交付義務があり
記載事項も法律で定められていますので
注意した方が良いでしょう。
⇒当事務所にご相談下さい。

親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、直ちに、公正取引委員会規則で定めるところにより下請事業者の給付の内容、下請代金の額、支払期日及び支払方法その他の事項を記載した書面を下請事業者に交付しなければならない。ただし、これらの事項のうちその内容が定められないことにつき正当な理由があるものについては、その記載を要しないものとし、この場合には、親事業者は、当該事項の内容が定められた後直ちに、当該事項を記載した書面を下請事業者に交付しなければならない。
2 親事業者は、前項の規定による書面の交付に代えて、政令で定めるところにより、当該下請事業者の承諾を得て、当該書面に記載すべき事項を電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であつて公正取引委員会規則で定めるものにより提供することができる。この場合において、当該親事業者は、当該書面を交付したものとみなす。
(下請代金支払遅延等防止法第3条)





【個別契約書との違い】

変動しやすい詳細条件や
イレギュラーな事項は
個別の契約書を用意する
とご案内しましたが、
取引基本契約書も各個別契約書も
まったく違う契約内容となるわけではなく、
どちらも、ひとつの契約として認められます。

たとえば売買契約であれば、
商品の財産権の移転合意条件として
販売代金の支払いが必要です。

売買は、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。
(民法第555条)


この売買契約は、
買主によってリピート発注される
可能性があります。
対する売主もさまざまな受注に対して
複数のスペックや種類の商品の取り扱い
もあるでしょう。

このような場合、

当事者間の権利関係の明確化
取引ごとの個別交渉の省力化
個別取引における取引文書や条項の簡略化


を図るため、
各個別の売買契約(個別契約)の共通条件を
あらかじめ定める
基本取引契約書が実務上大いに活用できます。

取引基本契約書に基づく受発注において、
かわされるであろう
発注書や注文書、申込書は、
実質的な契約書になり得ます。

契約書は本来、
両者の意思の合致を証明する前提で作成される
ものですが、
平常的に取引がある買主から申込み
があったといえる場合、
売主が即拒絶ということがなければ
売主は買主の申込みを承諾した
とみなされ、
申込み内容が記載された書類は
取引基本契約書に対する
個別契約書として機能する
ためです。




【取引基本契約のメリット】

1取引でわざわざ契約書を2つも用意するの?
当事者で混乱するだけじゃないの?


もしかすると、そう思われる方も
いらっしゃるかもしれませんが、
個別契約書とは別に
取引基本契約書を作成しておくことには
次のようなメリットがあります。

当事者間の権利関係がはっきりする
取引事項において共通するものは
取引基本契約書で取りまとめ、
個別の発注において
変動しやすい詳細条件やイレギュラーな事項は
個別契約書とすることで、取引内容が明確になります。

契約内容に矛盾する内容が多いと
取引内容が不明瞭になって
なんでもありな状態の契約

となるおそれがあります。
また、
基本的事項まで
すべて個別契約書に書き込んでしまうと
契約書のボリュームが必要以上に大きくなり
明確さも欠いてしまう

でしょう。

そこで、
事前に2種類の契約書を作成しておくことで
契約当事者がお互いに共通認識
を持つことができ
書面にも明確に残ります。


また、
個別の依頼における必要事項だけを
個別契約書に分けて記載することで
売主も依頼に対してすべき対応を把握でき
確認のためのコミュニケーションにかかる
時間や労力を
お互いのオペレーションのための時間
に使うことができます。
結果、取引コストの低減にもつながります。

②取引のスムーズ化
ビジネス上の取引は、スピーディな対応が大切です。
個々のやり取りに多く時間を費やして
収益機会の逸失してしまった

ということがないように
適切な取引基本契約書を
継続的取引がスタートする前に事前に用意する

ことで、取引がスムーズになります。
共通事項の取りまとめは手間もかかりますが、
毎回類似した内容の契約書をイチから作成し
契約内容をチェックするよりも効率が上がり、
チェックミスによる契約トラブルも防げます。

③リスクの回避
取引基本契約書の作成はまた、
取引関係の予測可能性を広げることができます。
たとえば売主が、
今後の受発注のボリュームを確認するため
取引基本契約書に
未来の発注予測の共有を定めておけば、
売主は発注予測に基づいて
製造や加工に必要な資材や在庫の確保のために
社内体制を整えることができ、
過剰在庫リスクも未然に防げます。

また、取引の継続性が予想できることで
急な取引解消を避けることもできるでしょう。
債権保全に関する条項を
取引基本契約書に記載することで、
相手方の財政状況の悪化や
支払滞納における対応

事前に定めておくこともできます。




【チェックすべき取引プロセス】

取引基本契約書の記載条項はさまざまですが、
想定する条項をすべて記載する必要かは
当事者と取引内容によって
ケースバイケースとなります。

どういうラインナップの契約条項に
取引基本契約書をまとめるか

を検討するためには、
実際の取引プロセスを整備
して、
各フェーズで起こり得るトラブルの予測
が重要です。

一般的な売買契約をモデルにした
取引プロセスとリスクは
この図のように整理できます。
これらの内容から、
売主と買主それぞれが抱える課題が
明らかになり、
契約書の記載項目をピックアップできます。




【取引基本契約書の記載項目】

取引基本契約書の作成で大切なのは、
契約当事者に共通する決まりごとを
正しく把握、想定した上で、
個別事情を含んだ当事者の取引に
マッチした内容にすることです。

それでは実際、
ご自身の取引基本契約書には
どのような契約条項をそろえましょうか。

売買契約をモデルにして考えると、
次にご紹介するような条項が
候補としてあげられます。



①基本合意
基本取引契約においての基本的な取引内容、
つまり、
当事者にとっての継続的な取り引きはなにか
を定めています。
売買契約の場合は、
「甲取扱いの商材を継続的に販売し、
 乙はこれを買い受ける」
などのように、
売買契約を基本取引とすることを明記します。

②適用範囲
取り交わす取引基本契約が
どこまでの取引に適用されるのか
を定めます。

③優先事項
取引基本契約書と個別の契約書の
どちらが優先するか

を定めます。
一般的には、
変動条件やイレギュラー内容を記載する、
個別の契約書を優先するケースが多いです。

④個別契約の成立
個別契約の成立条件を記載します。
法律上、売買契約の成立必須条件は
申込みと承諾
と定められていますので、
まず定めるべきは
このふたつを証明できる
発注や依頼でしょう。
売買契約であれば、
発注年月日、商材名や品番、
数量や納期、納品場所

といった項目はもちろん、
発注書(注文書)などの書面の有無
書面提出方法や期限

を定めます。
近年ではITツールも充実しており、
メールや共有フォルダへの格納などの
発注の受け付け方法も多岐に渡りますが、
より迅速、簡単、確実な発注方法
を定めたいところです。
また、
売主が発注内容を承諾しない場合の
回答期限や通知方法

も忘れてはならないでしょう。

⑤発注予測の提出
売買契約において、
売主が商材確保のために
もしも発注予測が欲しい場合

発注対象の商材の
発注予測期間、数量や提出時期
を記載します。
発注数量が
予測と実績で乖離する場合の
損害賠償請求の有無や、
具体的な賠償対応方法
なども明記しておきます。

⑥期限の利益の喪失
代金の支払者となる債務者は、
法律上、一定条件で期限の利益を主張できない

とされています。

次に掲げる場合には、債務者は、期限の利益を主張することができない。
1 債務者が破産手続開始の決定を受けたとき。
2 債務者が担保を滅失させ、損傷させ、又は減少させたとき。
3 債務者が担保を供する義務を負う場合において、これを供しないとき。
(民法第137条)


本来、ビジネスにおいて
期限は相手に待ってもらえる利益
になり得ますが、
待つことが
利益からリスクに転じるような事態

に期限の利益を喪失させ、
相手方に対して
直ちに債務を履行するように要求

できるようにすることで
売主は支払期限の到来を主張できるため
債権回収不能リスクを軽減できます。

具体的には、
支払停止や不能な状態に陥った場合や
差押え、仮差押え、破産、会社整理
の申立てをおこなった場合に

取引基本契約書や個別契約書(発注書)の
利益期限を喪失する
といった内容を記載できます。

⑦報酬(代金)に関する定め
報酬または代金と関連費
その入金方法や支払期限などを記載します。

⑧商品の受け渡し、納入
発注に対する納期と納品場所、
受け渡し方法を記載します。
発送料が発生するのであれば、
その負担先も定めておきます。

⑨検査・検収
商材を受け渡した後、
買主は商材が支払代金に該当するのか

をチェックしなければなりません。
そのため、
検品の方法や結果や期限
売主に対する検品結果の通知について定めます。
オペレーションの簡略化のため、
通知がなければ検査に合格したとみなす
などの記載もよく使われます。

⑩不合格品の処理
⑨の結果、
不合格となった商材の取扱いについて定めます。
不合格の理由が
品質であったり、数量不足の場合は
追加納入の可否と納入期限
数量オーバーの場合に受け入れるかどうか

受入の場合のディスカウント有無
または回収の方法と期限を記載します。
検査不合格に対する
売主の異議などの通知方法

なども記載してよいでしょう。
※これを、特別採用といいます。

⑪所有権の移転
法律上、所有権の移転時期は、
契約当事者で自由に決めることができます。

物権の設定及び移転は、当事者の意思表示のみによって、その効力を生ずる。
(民法第176条)


納品された商材の所有権が、
契約時、納入時、検品完了時、代金支払時など
買主に移転時期を定めましょう。

⑫危険負担
引き渡し前に
商材の破損や紛失、劣化など損害が発生した場合
の作業や経費を誰が負担するのか

を明記します。
※引き渡し後についても
 負担者を定めるケースがあります。


⑬契約不適合責任(瑕疵担保責任)
取引契約における重要な項目で
直近の民法改正で大幅に内容が変更しています。
目的物である商材が納品されたときに
瑕疵(受領した際にはわからなかった隠れた不具合)
があった場合
その商材の種類や数量、品質、
通知方法や責任負担
を定めます。
⑩で説明した
特別採用によって納品された商材についても
取り決めをした場合は、合わせて明記したいですね。
もしも責任期間について
民法と異なる取り決めをする場合は、
その期限などを定めましょう。
※契約不適合責任については、
 以前のコラムで詳しくご紹介しています。
 ⇒
こちら

⑭価格
取り扱いが商材であった場合、
⑦ではなく、こちらを定めます。
一般的には、
売主による見積書によって商材の単価が提示され
両者が協議の結果決定する旨を記載します。
※リピート発注の対象商材が
 その都度違う場合は
 取引基本契約書ではなく
 個別の売買契約書への記載がよいでしょう。


⑮代金の支払い、相殺
代金の支払方法や会計締め時期、支払日
を定めます。
契約書上、記載をコンパクトにしたい場合は、
⑭と一緒の条項にまとめるのもOKです。
金融機関口座への振り込みであれば、
振込手数料の負担先を明記しましょう。
※特に下請取引のケースでは、
 手数料負担における契約トラブル
 が多く見受けられます。


買主が売主に金銭債権を持っている場合は、
支払金額による相殺可否
を記載することもできます。

⑯秘密保持契約
取引において知り得た相手の情報は
秘密にすべき
ことが多いです。
そういった情報を明確に定義して、
第三者に漏洩してはならない旨を記載すべきです。
契約書上、契約終了後も適用されると記載することが多く、
期限付きであるとしてもいつまでになるか、明記しましょう。

⑰通知義務
契約締結後に、
法人名や商号、住所や代表者、指定口座など
当事者の情報が変わることがあり得ます。
その場合は、取引に支障が出ないように
ただちに通知する旨や通知方法、期限
を記載しましょう。

⑱契約解除・解約の申し入れ・解除
契約の解除や解約条件、
その時期や予告有無を記載します。
よくある記載内容としては
反社会勢力の廃除などがあげられます。
⑦の記載する支払期限から滞納した場合の
フォローアップも有効です。
契約事案を十分に考慮して
当事者のどちらか一方が
不利な内容になっていないか
慎重に内容を調整すべきでしょう」。

⑲損害賠償
法律上、契約における損害賠償としては、
通常生ずべき損害
予見すべき特段の事情によって生じた損害

が定められています。
これらの範囲を
基本取引契約書で明記する必要
があるでしょう。

債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。
特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見すべきであったときは、債権者は、その賠償を請求することができる。
(民法第416条)


もし、
実際に発生した損害だけに限定すれば、
当事者の損害賠償リスクの軽減につながります。
⑱に該当した場合に損害賠償を請求する
その記載を加えてもよいでしょう。

⑳契約期間
契約の種類、内容、契約期間を記載します。
更新の有無や方法なども
合わせて記載しましょう。
近年では、
自動更新の旨記載することも多くなりました。

㉑協議
契約書に記載しきれない不測の事態
も、ビジネスにはつきものですね。
想定外の事態の対応を
契約条項の最終補填のために記載しましょう。

㉒裁判管轄
契約トラブルから訴訟提起に発展するなど
万が一の場合に備えて、
合意管轄裁判所を定めることで
スムーズな手続きが可能となります。
納入場所を想定すると
裁判管轄のエリアは原則、買主の住所地となります。

訴えは、被告の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所の管轄に属する。
(民事訴訟法第4条1項)。



【取引基本契約書の印紙】

契約書をはじめ、
取引において発生する一定の文書は
課税文書と呼ばれ、
印紙税が課税されます。
※課税文書は
 その記載内容に基づいて実質的に判断されます。


取引基本契約書もまた、
7号文書(継続的取引の基本となる契約書)
として課税文書に該当し、
4,000円の印紙が必要です。

ただし、
7号文書の要件を満たす場合であっても、
契約期間が3ヵ月以内で
更新の定めがない契約書は
7号文書には該当しません。


最近では、
契約書のデジタル作成も増えてきましたが、
電磁的記録によって契約締結する
電子契約の場合は書面の交付とならない

という理由から、
印紙の貼付は不要(=印紙税はかからない)
となります。




【継続取引に取り入れたい契約スキーム】

取引基本契約書は、
継続的取引において
その都度契約書を作成しなくて済むように、
取引共通項目をあらかじめ定めておく
契約書です。
この契約を締結することで
多くの契約内容をまるっとカバーでき、
スピーディな取引や契約トラブルの防止
につながります。
注文や申込みのリピートが見込まれる相手方
に対しては最大限活用したいところです。

WINDS行政書士事務所は、
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