コラム

LGBTQの相続

2022.12.14[遺言相続]




【予備知識が必要!LGBTQの相続】

こんにちは。西新宿の行政書士、田中良秋です。

人としての多様性が最大限尊重される現在、
その個性が確立された代表的な存在が
LBGTQです。
これらの皆さまが
日々の生活を送るという面では
パートナーシップをはじめとした
さまざまな制度が充実してきた反面、
亡くなった後の相続などにおいては
まだまだ従来のルールに従わざるを得ず、
同性パートナーに財産がのこせなかったり
親族や関係者とのトラブルに発展する
ケースも多いです。

LGBTQの皆さまが、LGBTQだからこそ、
法律の知識とその対策を
いざという時に備えて知っておきたい
ところです。




【パートナーの法定相続人】

現在の法律では、
同性パートナーは
もう一方のパートナーの財産を
法律的に相続することができません。

導入する自治体も増えてきている
パートナーシップ制度は、
国が法律で認める婚姻関係とは異なるもの

であり
同性パートナーは法定相続人になれない
ためです。

また、同性カップルの現状として、
養子を授かる以外に、
ふたりの間に子どもがいない
ことが多く、
その場合のパートナーの法定相続人は、
ご両親などの直系尊属
ご両親がが亡くなっていれば、兄弟姉妹
兄弟姉妹が亡くなっていれば、
その子(甥や姪)

となります。

このような関係から、同性カップルの場合、
パートナーが亡くなったとき
その財産を
だれが、どのように相続するかで
同性パートナーと親族との間でトラブルになる
ことがあります。
親族がLGBTQであることや
同性カップルであることを知らない、
または認めていない場合、
相続発生時に、
不動産や預金などの財産をだれが、
どのように受け取るのかを争うことになる

ためです。




【パートナーの相続財産】

LGBTQの方であっても、
そうでない方であっても、
相続において共通する重要なこととして
相続財産=遺産となるものを
明確にする必要がある

ということです。

一般的に相続財産となるものとして、
現金
預貯金
不動産(土地、建物、マンション)
株式や有価証券

などが、あげられます。

また、最近では、
SNSやアプリのポイントやマイレージ
会員サービスやその特典
PAYサービスのチャージ金
仮想通貨やFX

なども、
相続における取り扱い方が
話題となっています。

ちなみに、
生命保険金や、
在職中の死亡の場合に発生する死亡退職金
などは、指定受取人の固有財産とされます。
※これらもまた、
 相続税制上、「みなし相続財産」となります。





【LGBTQの相続リスクと対策】

LGBTQの同性カップルが、
パートナーシップ制度で宣誓していたと
しても、
現在の法律ルールでは法定相続権がなく、
相続対策として十分ではありません。
パートナーの想いを果たすため、
パートナーを守るため、
次のような相続対策を
具体的に検討されるとよいとでしょう。

①遺言書の作成
一般的な相続対策のひとつとしては
死亡する人の意思を明確に表す
遺言書が定着しています。
同性カップルの場合も、
パートナーが遺言書を作成することによって、
相続権のない同性パートナーに
自分の財産をのこす(=遺贈)
ことができます。


遺言書の形式は複数ありますが、
遺言の有効性でのトラブル防止策として、
公正証書遺言がおすすめです。
※遺言書形式の種類については、
 以前のコラムでご紹介しています。
 ⇒
こちら
※遺贈については、
 以前のコラムでご紹介しています。
 ⇒
こちら

ただし、遺言書を残すときにも、
パートナーの法定相続人が保障を受ける
遺留分には配慮すべきです。
遺留分は
遺言書を作成しても奪うことはできず、
これを侵害する内容の遺言書が作成されると
同性のパートナーと法定相続人との間で
トラブルが発生する可能性があります

ので、注意しましょう。
※遺留分については、
 以前のコラムでご紹介しています。
 ⇒こちら


②死因贈与契約をむすぶ
死因贈与とは、贈与契約の一種で、
贈与者の死亡によって財産移転の効力が生じる
ものです。
受贈者は、必ずしも親族である必要はなく、
パートナーにも自分の財産をのこせます。
遺言による遺贈のシステムと似ていますが、
制度ではなく、合意が絶対条件の契約である
という決定的な違いがあります。

この贈与は、口頭でも成立しますが、
口頭でのやり取りは、
法定相続人ともトラブルやが予想されますので、
必ず契約書を作成しましょう。
※口頭での契約については、
 以前のコラムでご紹介しています。
 ⇒
こちら

また、
死因贈与は負担する不動産取得税額が高くなる
というデメリットがあることも
念頭に置きたいところです。
(遺言書による相続=0に対して、
 死因贈与は不動産価格の3~4%)


③養子縁組
同性カップルで養子縁組することによって、
ふたりは法律上の親子となります。
これでパートナー同士で親族になりますので、
同性パートナーに相続権を与えることが可能
となり、
税金や年金、社会保険など、
親族を適用対象とする制度も活用できます。

※ふたりで同じ名字を名乗ることも
 できるようになります。


ただ、同性カップルとしては
対等を求めることを大切にする皆さまが多い
とお見受けしますので、
縁組によって急に親子関係になることに
違和感を感じる

という方も、いらっしゃるかもしれません。
また、パートナーシップを宣誓した後に
養子縁組による法的親子関係が成立すると
パートナーシップ制度の要件を満たさなくなる

おそれもありますので、
十分に理解したうえで
制度を活用するようにしましょう。

また、
パートナーの親族は、時と場合によって、
養子縁組無効の主張ができます。
相続のときになって、
親族がはじめて養子縁組のことを知れば
きっと驚くでしょう。
それだけでなく、
養子縁組の同性パートナーに財産が相続される
となれば
反感を買う可能性はさらに高くなるでしょう。
大切な同性パートナーが、
自分の親族から責められることなく
心穏やかに過ごせるように、
あらかじめ親族には話を通すことを
おすすめします。

④任意後見契約
認知症などで
万が一パートナーが判断能力が低下したとき
信頼する人に自分の後見人になってもらえ
自分に関わる手続きなどの一切を任せられる

任意後見契約も有効です。
同性カップルで、
お互いを後見人として設定することもできます。
任意後見契約で認められる事務としては、
財産管理
介護における保険・認定手続き
日常生活における手続き

などがあげられます。
また、
パートナーシップ制度を利用する際には、
任意後見契約を結んでいることを前提条件
としている自治体もあります。
任意後見契約書は、公証役場で作成します。
※任意後見契約については、
 以前のコラムでも詳しくご紹介しています。
 ⇒
こちら

⑤委任契約
④とともに検討できるのが、委任契約です。
財産管理や介護、看護などの
身の回りのサポートを
同性パートナーにお願いできます。
委任契約書を作成することで、
医療機関や介護施設の申込みや手続きに
委任状を書く必要がなくなります。

パートナーが亡くなった場合に備えて、
死後事務委任契約をむすぶことで、
同性パートナーに
相続以外の葬儀手続きや遺品整理など、
死後の手続きを任せられます。
死後事務委任契約書もまた、
公証役場で作成が可能です。



⑥生命保険
生命保険の受取人をパートナーに設定
することによって
同性のパートナーに対して
保険金をのこすことが実現できる
場合があります。

保険金詐欺などを防止する観点から
数年前までの生命保険は、
保険金の受取人にはなれないことが多かった

のですが、
しかし、
パートナーシップの普及や
LGBTQの見識の広がりを受けて、
最近では、
同性パートナーを保険金の受取人に指定できる
保険が増えてきています。


すでに生命保険を契約している場合でも、
生命保険会社へ直接意思表示
(内容証明郵便の送達など)
遺言で意思表示

といった方法で
受取人をパートナーへ変更することが
法律で認められています。

既存の生命保険に加入している方も、
受取人をパートナーに変更が可能かどうか、
保険会社に問い合わせされるとよいでしょう。

保険契約者は、保険事故が発生するまでは、保険金受取人の変更をすることができる。
2 保険金受取人の変更は、保険者に対する意思表示によってする。
3 前項の意思表示は、その通知が保険者に到達したときは、当該通知を発した時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、その到達前に行われた保険給付の効力を妨げない。
(保険法第43条)

保険金受取人の変更は、遺言によっても、することができる。
2 遺言による保険金受取人の変更は、その遺言が効力を生じた後、保険契約者の相続人がその旨を保険者に通知しなければ、これをもって保険者に対抗することができない。
(保険法第44条)


ただ1点、
相続人でないパートナーが受取人となる場合
税制上の優遇が受けられない
ことを
あらかじめ認識しておきましょう。

一般的に法定相続人が死亡保険金を受け取るときは、
「500万円×法定相続人の人数」の金額が非課税
となりますが、
同性パートナーには非課税適用されません。
(保険金全額が相続税課税対象となってしまう)

ちなみに、相続税は
納税者が一定の親族ではない場合、
2割増しでの納税
となります。

また、受取人が親族でなければ、
生前の所得税の生命保険料控除
といった優遇も適用できません。

⑦ペアローン
同性カップルで
不動産を購入してふたりの共有財産とする場合、
ペアローンを組める金融機関も存在し、
同性カップルでも活用事例が増えています。
ペアローンとは、
2人がそれぞれ持分を決めて契約者となり、
お互いの連帯保証人となる契約
です。
※ペアローンとは異なり、
 ひとつの契約でふたりが各持分を決め、
 ふたり同時に住宅ローン控除を適用できる
 連帯債務型の借り入れ契約もあります。


こうしたローンの場合、
パートナーと連帯して
ローンの返済義務を負うことになるため、
団体信用生命保険に加入するなどして、
パートナーが死亡した場合の備えを
忘れないようにしたいところです。

⑧信託契約
信託契約とは、
契約者が自分の財産を預けて運用管理を任せる
ことによって、利益を得る契約
です。

信託契約には、預ける相手によって、
次の2種類があり、
近年注目されています。

商事信託
信託会社や銀行に財産を預ける)
民事信託
家族や親族など身の回りの人に財産を預ける)


契約者本人は
信託財産や受益者を自由に設定できるので、
本人や同性パートナーを受益者に指定できます
が、
同性パートナーを受益者とした場合は、
信託設定時に贈与税
信託期間中は所得税など
が課税されます。


また、
法定相続人の親族に無断で
信託財産をパートナーに渡してしまうと、
親族からの反感を買う場合もありますので、
親族へは事前に了解を取るなどを
検討した方がよいでしょう。




【確認が難しいマイナス財産】

同性パートナーには、
日々の生活やビジネスで発生した
ローンや借金などのマイナス財産
がある場合があります。
交際していたり、ともに生活をしていても、
その額や返済期限など
なかなか相手には聞きにくいものですよね。

たとえば、パートナーが亡くなったとき
パートナー名義の借金が存在する場合には
マイナス財産として、
その借金も相続財産に含まれる

ことになります。

ただ、同性パートナーは、
養子縁組などしない限り
法律上相続権が認められない代わりに
パートナーの借金を引き継ぐ
ことはありません。

また、
パートナー名義の借金で
連帯保証人に就任しない限り、
同性パートナーに
借金の返済義務は発生しません。

こうした点をふまえて、
ふたりにとってどのような対策がベターかを
検討されるのがよいでしょう。




【最愛のパートナーを永遠に守りたい】

社会的にも正しく認識されるようになった
LGBTQの皆さまが
より生活を豊かに送れるように
パートナーシップ制度の普及が進んでいますが、
相続となると、この制度だけでは、
同性パートナーに財産を残すことはできません。
同性のパートナーがいて、
一緒に生活をともにしていらっしゃる場合は、
生前にでき得る相続対策を検討して、
アクションをおこなうことが大切です。

最愛のパートナーに
確実に財産を残すための対策や
必要な書類の作成、準備において、
WINDS行政書士事務所がサポートを承っております。
是非、ご相談ください。