コラム

秘密保持契約

2021.05.19[契約]





【ビジネス上の情報や秘密を守る】

こんにちは。西新宿の行政書士、田中良秋です。
BtoB(企業間取引)においては、
お互いの利益の確保や向上のため、
取引それ自体に関する契約の成立と同時に、
個人情報や法人機密情報など、
お互いの企業の情報を守っていくことが必要不可欠です。

たとえば、情報システムの開発などでは、
納期や報酬などの合意と合わせて、
受注側の企業が、
発注側の企業の機密情報に接する機会が非常に多いです。

そんなときに、二者間で取り交わされるのが、

秘密保持契約

です。


【秘密保持契約とは】

秘密保持契約とは、

営業秘密や個人情報など、秘匿性の高い情報を
契約当事者間で提供・共有する際に、
お互いの情報を大切に保護しようと約束する契約
です。
企業にとって重要な情報、秘密にしたい情報を
外部にもれたり、不正に利用されないように保護する

非常に重要な契約となります。
英語では、
Non Disclosure Agreementといい、
私たちのような契約に精通した専門家や
利用の多い事業者さまの間では、
これを略して
「NDA」と呼ぶことが多いです。

この契約を取り交わすときは、
ビジネスの開始前または同時に
秘密保持契約書サイン・捺印します。

秘密を保持するために、
秘密保持自体を契約として結ぶだけではなく、
対象ビジネスの前提となる取引基本契約書の中に
条項として定めることもできます。

秘密保持対象となる情報は、
法律で明確に定義されていません
しかし、言いかえると、
当事者が自由に定めることができる
ということになります。
代表的な対象情報は、次の2つに分けられます。

1⃣営業秘密
企業の持つ事業戦略や技術など、
企業活動のライフラインといえる情報です。
これらの情報が競業他社に漏洩した場合、
企業の利益だけでなく、
今後の事業活動にも直結します。

万が一、
営業秘密が漏洩した場合は、
企業情報を秘匿して保護する
不正競争防止法を活用できるように、
適切な秘密保持契約を締結する
ことが必要です。

<経済産業省:知的財産法の種類>


2⃣個人情報
それぞれの企業担当者や商品やサービスの利用者、
利害関係者に関する情報が該当します。
個人情報は、
2003年に成立した個人情報保護法によって、
現在では社会的にも高く関心がもたれています。
個人情報の漏洩が発覚した場合、
企業が受ける社会的ダメージは計り知れません。
e-GOV個人情報保護法

秘密保持契約を取り交わす具体的な場面として、
当事務所がこれまで取り扱ったケースとしては、
以下のようなものがあげられます。


もっとも最近は、
個人情報漏洩に対してシビアな傾向にあり、
非難やネット上での炎上があがりやすいため、
これらのケース以外であっても、
当事者が積極的に秘密保持契約の締結を求める機会が増えている

と感じます。




【秘密保持契約の重点ポイント】

秘密保持契約を締結する際に、
契約書上、より重視すべきチェックポイントを、
10の条項をピックアップしてご紹介します。

①開示目的
秘密保持契約は、
ビジネス自体を合意する前に
締結されることが多いことから、
開示目的は抽象的にせず、

「システムの開発業務」
「甲の乙に対する事業の譲渡」
「乙が甲に提供するサービス」


などのように、
できる限り具体的に明示
することをおすすめします。

開示目的を具体的に明示することによって、
秘密情報の契約外での悪用防止
にもつながります。

ちなみに、
ビジネスにおける秘密情報の提供は、
契約当事者双方が同時に行うことが自然ですので、
自社から情報提供の可能性があれば、
「相互に開示する」
との記載がのぞましいと考えます。
※秘密情報の開示が明らかに一方的のみであれば、
 「甲から乙に開示する秘密情報」
 などの記載でもOKです。


②秘密情報
当事者間で相互に共有していく情報は、
さまざまなものがあります。
その中で、
秘密情報が何を指し、どの範囲までか。
これは、秘密保持契約においてもっとも重要であり、
具体的に定義することが必要です。
ビジネスで、相互開示情報のすべてを
守秘義務をもって管理していくのは、
当事者相互にとって、大きな負担となりますので、

「秘密である旨明示のうえ開示したもの」
「書面内に社外秘などの印字が付いたもの」

などと、一般的には定義づけられます。

また、
業務遂行上多くなるであろうと想定されるのが、
口頭での情報開示です。
この場合は、
開示経緯や秘密情報の明示の立証が難しいことが多く、

「言ったはずだ」
「聞いていない」


と、
トラブルのもとになりやすいといえます。
この場合は、たとえば、
「口頭で開示した情報は一定期間内に書面化する」
など定義付けることが可能です。

③知的財産権
密情報には、
知的財産も含まれることが多いです。
この場合、オペレーション上必ずしも、
知的財産の使用許諾を得る必要はなく、
必要に応じてライセンス契約を締結する
という選択肢があります。

④守秘義務の方法や範囲
秘密情報の守秘義務が存在する
という事実や、
秘密を保持する方法
を定めることも、非常に重要です。
特に、情報が複製(=コピー)されると、
情報を提供する側にとって情報漏えいリスクが倍増

します。

この場合は、
秘匿性の高い情報を守るため、

秘密情報が記録された媒体は原則複製禁止
提供者の承諾を得て取り扱う


など、
定義することができます。

情報を受け取る側の立場では、
秘密情報を社内オペレーション上、
情報共有のためにコピーして
社内スタッフや関連部署に渡す

といった場面では、
その都度情報提供者の承諾を得るのが困難
な場合もあります。

このような場合は、
複製物の作成が想定される場面を契約書に明示
したうえで、
許容される旨を定めることができます。
秘密情報を利用する社内従業員などに対しては、
どの情報を今回のビジネスで取り扱うのか
どの情報が契約書上の秘密情報に該当するのか

マニュアルや規定化することによって
対応も必要です。

⑤第三者への開示禁止
ビジネスの内容や立場、進捗に応じて、
情報を受け取った側は、
コンサルタントや、行政書士などの専門家などの
外部に秘密情報を提供して相談することが
あるのではないでしょうか。
この場合、
情報を開示する側から、
書面で事前に承諾を得るべきと定める
または
外部の第三者に開示することを許容する
などといった記載を加えることが可能です。
※開示された第三者も同様に、
秘密保持義務を課されるのが一般的です。


それでは、
これがビジネス相手ではなく、
裁判所や行政機関などから
文書提出命令や開示要請を受ける場合

はどうでしょうか。
命令や要請によっては、
従わないと罰則対象となり得るため、
第三者提供の禁止という記載
を入れるべきかを検討しなければなりません。
※職業上の秘密に関する事項に関しては、
 裁判所による文書提出命令の対象となりません。
※文書提出する義務がないのにも関わらず提供した場合は、
 秘密保持義務契約違反と判断される場合があるため注意が必要です。




⑥目的外使用の禁止
情報漏洩リスクを低減させるため、
秘密情報の開示目的を明確に定めることを前提として、
ビジネス目的以外には使用しない
旨を記載することが必須といえます。

⑦保証の否認
秘密保持契約を結ぶことによって、
秘密情報の開示方法や管理方法が定められます。
そのうえで、
秘密情報を開示しても、
それら情報の正確性を保証するものではない
こと、
また、情報の正確性を保証する必要がある場合には、
ビジネス自体に関する契約の中で規定される
ことが一般的です。

⑧秘密情報の処分
ビジネスが収束を迎える時期に
秘密情報が必要でなくなった場合
それら情報の返還や廃棄が必要となります。
媒体に応じて、シュレッダーや焼却、溶解処分をおこない、
マニフェスト(廃棄証明書)や処分証明書類などを、
情報を開示した側に交付する

ことを記載します。
※媒体がデジタル形式の場合は、
 デジタル記録媒体に保存して開示者に返還、
 または受領者の責任で廃棄して
 マニフェスト(=廃棄証明書)交付
 する方法が一般的です。


⑨契約有効期間
秘密保持義務がいつまで続くのか
に関しては、
開示目的が完了した後も存続させるという、
ほぼ無期限という記載が多く見受けられます。
情報を提供する側にとって
極めて重要な情報である場合は、
無期限またはある程度長く期間を設定する
ことが必要です。

一方、情報を受け取る側の立場では、
ビジネス目的が達成し、ある程度の期間が経過すれば、
それらの情報自体の価値や新鮮さが変わってしまい、
ビジネスを追求するうえで、
今後厳格な管理をするべき情報なのか、
という問題も発生します。
この課題に対しては、あえて、

業務提携期間中
基本契約継続中


など、
秘密保持期間を限定することで解消されます。
契約における秘密情報の価値や、
当事者関係のバランスを十分に考慮する
ことが大切です。

⑩損害賠償、違約金
営業秘密や個人情報が漏洩した場合、
漏洩の経緯や漏洩によって損害をこうむります。
これら損害額を
算出できない
算出根拠の証明が困難

といった理由から、
情報を漏洩した側に対して損害賠償を請求できない
という懸念があります。

対策としては、
重要な秘密情報を開示する場合、
損害賠償とは別に違約金を定める
ことが可能です。

違約金の定めは、
相手方の義務違反を立証することによって成立します。
ただし、違約金の金額は、
実際に損害をこうむる可能性のある金額がどのくらいのものか、
合理的に定める必要があります。
または、
秘密情報の使用の差止めを請求
できるという条項を加えることもできます。


秘密保持契約は、
比較的よく取り交わされている
契約書のひとつであり、
ビジネスがスタートする最初の時期に
作成されることが一般的です。
また、重点項目を整理すれば、
他社との契約にも応用がききます。
自社の利益のため、重点ポイントをおさえて
漏洩されると困る情報を
しっかりと守っていきましょう。

WINDS行政書士事務所に是非ご相談いただき、
契約や権利義務に関係する書類の作成で
ビジネスのスタートダッシュのお手伝いをさせてください。