【法が守る契約ルール】強行規定(>任意規定)
2024.11.27[契約]
【法律の規定に存在するパターン】
こんにちは。西新宿の行政書士、田中良秋です。
私たちの生活全般において
すべて関わっている法律は
個々の条文からなる規定で構成されています。
これら法律の規定には
強行規定と任意規定
という種類があるのはご存じでしたでしょうか。
日々の生活やビジネスにおいての
契約ごとや実務上
この規定の区別を理解しておくことは
非常に大切です。
今回は、これら規定の違いや
実際の契約書類での具体例、対策など
幅広く解説します。
【強行規定と任意規定】
強行規定とは、
法令に置いての公の秩序に関する規定
をいいます。
※より堅めの表現として、
強行法規とも呼ばれています。
法律には、
個人や法人の間(=私人間)の法律関係は、
契約によって自由にルールを決めてOK
という契約自由の原則が大前提となっています。
もちろん、
すべての契約ごとが
当事者が定めるままであることが
良いかもしれませんが、
あまりにも自由過ぎる決定に委ねていては、
社会秩序の乱れや
一方の当事者だけに不利益が偏る
といったリスクが生まれてしまいます。
こうしたリスク対策のため、
民法などの法令では、
契約の定めに関わらず
強行規定を強制適用し
当事者の意思により変更することが許されない
ルールが定められます。
そのため、
契約において
強行規定に反する内容の契約や条項は無効
となります。
強行規定の見分け方としては
法律の条文から、
「▲▲は無効」
「●●は効力を有しない」
などの定めがあるという特徴をチェックする
ことが一般的ですが、
私たち行政書士などの専門家は
これらに加えて
その法律のそもそもの趣旨
判例や学説も確認するようにしています。
⇒当事務所までご相談ください。
強行規定のようなルールは、
一定の目標実現のために
日本だけでなく
世界中でも定められています。
ただ、
なにを強行規定としているかは各国で異なり、
国をまたいだ取引の際は、
外国法令が準拠されるかも含めて
事前に確認をした方が良いでしょう。
この強行法規と反対するものが
任意規定となり、
法令において公の秩序に関せず
当事者の意思によって変更が認められる規定
で、
法律上、一定の定めがあっても、
契約当事者が法律の規定と異なる合意
をおこなった場合、
その合意内容が優先しますので
ビジネスの契約ごとにおいては
任意規定が一般的となります。
ふたつの規定と契約自由の原則の
適用優先順位を比べてみると、
このようになります。
【強行規定の具体例】
公の秩序を守ることが大前提となる性質上、
強行規定は次のように
日本の各法律にちりばめられています。
①公序良俗
民法では、
公序良俗に反する行為は無効
と規定され、強行規定と解釈されます。
公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。(民法第90条)
契約書に
この規定に違反する条項を有効にする旨を
法律的な効果は発生しません。
②組合員の脱退
民法には、組合契約の規定があり、
そのなかで組合員の脱退について
定められています。
組合契約で組合の存続期間を定めなかったとき、又はある組合員の終身の間組合が存続すべきことを定めたときは、各組合員は、いつでも脱退することができる。ただし、やむを得ない事由がある場合を除き、組合に不利な時期に脱退することができない。
2 組合の存続期間を定めた場合であっても、各組合員は、やむを得ない事由があるときは、脱退することができる。(民法第678条)
これは、
加入している組合員が
やむを得ない事由がある場合に、
組合存続期間の有無に関わらず
常に組合から任意脱退できる
というものです。
これについては、
組合契約の条項における有効性が
実際に裁判で争われたことがおり、
判例では、
やむを得ない事由があったとしても
任意の脱退を許さないという規定は無効
と判事されています。
※最高裁平成11年2月23日判例
③瑕疵担保責任(品確法)
住宅の品質確保の促進等に関する法律は
住宅品質確保の促進や住宅購入者の利益保護、
住宅紛争の迅速・適正な解決を目的に
民法上の特則を定めたもので、
おもに
新築住宅の瑕疵担保責任に関するルールが
ラインナップされています。
この法律で強行規定とされているのが、
新築住宅における契約(請負・売買)で
一方の契約当事者(請負人・売主)が負う
瑕疵担保責任の条項です。
新築住宅の構造耐力上
主要部分などに瑕疵があった場合、
引渡しから10年間
請負人・売主は注文者・買主に対して
民法上の契約不適合責任と同等の責任を
負う義務が発生します。
注文者・買主にとって
有利な特約は認められますが、
注文者・買主にとって不利な特約は無効です。
住宅を新築する建設工事の請負契約(以下「住宅新築請負契約」という。)においては、請負人は、注文者に引き渡した時から十年間、住宅のうち構造耐力上主要な部分又は雨水の浸入を防止する部分として政令で定めるもの(次条において「住宅の構造耐力上主要な部分等」という。)の瑕疵かし(構造耐力又は雨水の浸入に影響のないものを除く。次条において同じ。)について、民法(明治二十九年法律第八十九号)第四百十五条、第五百四十一条及び第五百四十二条並びに同法第五百五十九条において準用する同法第五百六十二条及び第五百六十三条に規定する担保の責任を負う。
2前項の規定に反する特約で注文者に不利なものは、無効とする。
3第一項の場合における民法第六百三十七条の規定の適用については、同条第一項中「前条本文に規定する」とあるのは「請負人が住宅の品質確保の促進等に関する法律(平成十一年法律第八十一号)第九十四条第一項に規定する瑕疵がある目的物を注文者に引き渡した」と、同項及び同条第二項中「不適合」とあるのは「瑕疵」とする。(第94条)
新築住宅の売買契約においては、売主は、買主に引き渡した時(当該新築住宅が住宅新築請負契約に基づき請負人から当該売主に引き渡されたものである場合にあっては、その引渡しの時)から十年間、住宅の構造耐力上主要な部分等の瑕疵かしについて、民法第四百十五条、第五百四十一条、第五百四十二条、第五百六十二条及び第五百六十三条に規定する担保の責任を負う。
2前項の規定に反する特約で買主に不利なものは、無効とする。
3第一項の場合における民法第五百六十六条の規定の適用については、同条中「種類又は品質に関して契約の内容に適合しない」とあるのは「住宅の品質確保の促進等に関する法律(平成十一年法律第八十一号)第九十五条第一項に規定する瑕疵がある」と、「不適合」とあるのは「瑕疵」とする。(第95条)
④借地借家法
建物に関する権利として、
民法の特別ルールを定めた法律で
建物所有における借地権
や、建物の賃貸借契約など
のルールが規定されています。
建物所有のために土地を借りる借主にとって、
これらの権利は、
自分自身の生活や営業において
非常に重要なものと考えられ、
借主の保護がこの法律の大きな目的となります。
※借地権はおもに、
地上権と賃借権に分けることができます。
この法律では、
借主にとって有利な特約を定めることはOK
ですが、
反対に不利となる特約は無効とされています。
この節の規定に反する特約で借地権者に不利なものは、無効とする。(第9条)
第十条、第十三条及び第十四条の規定に反する特約で借地権者又は転借地権者に不利なものは、無効とする。(第16条)
第十七条から第十九条までの規定に反する特約で借地権者又は転借地権者に不利なものは、無効とする。(第21条)
第三十一条、第三十四条及び第三十五条の規定に反する特約で建物の賃借人又は転借人に不利なものは、無効とする。(第37条)
当事者の一方に不利となる特約を禁じている
ことから、これらや準ずる規定は
片面的強行法規と呼ばれています。
⑤労働基準法
労働条件の最低ラインを定めた法律で
使用者の不当な搾取防止、
労働者が人として当たり前の生活を営むための
必要な収入の確保することを目的とし、
労働者に適用されます。
この法律では、
一定基準に満たない労働条件を定めた
労働契約条項は無効
とされています。
強行規定として集約されている条項が、
次に挙げる第13条と考えますが、
労働者の保護を目的としている性質上、
この法律全体が強行規定でできている
と言えるでしょう。
この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合において、無効となつた部分は、この法律で定める基準による。(労働基準法第13条)
⑥利息制限法
お金の貸し借りにおける
金利上限や遅延損害金など
が定められている法律です。
この法律に反する
金銭消費貸借利息や遅延損害金などで
超過部分は無効です。
金銭を目的とする消費貸借における利息の契約は、その利息が次の各号に掲げる場合に応じ当該各号に定める利率により計算した金額を超えるときは、その超過部分について、無効とする。
一元本の額が十万円未満の場合年二割
二元本の額が十万円以上百万円未満の場合年一割八分
三元本の額が百万円以上の場合年一割五分(第1条)
金銭を目的とする消費貸借上の債務の不履行による賠償額の予定は、その賠償額の元本に対する割合が第一条に規定する率の一・四六倍を超えるときは、その超過部分について、無効とする。
2前項の規定の適用については、違約金は、賠償額の予定とみなす。(第4条)
第四条第一項の規定にかかわらず、営業的金銭消費貸借上の債務の不履行による賠償額の予定は、その賠償額の元本に対する割合が年二割を超えるときは、その超過部分について、無効とする。
2第四条第二項の規定は、前項の賠償額の予定について準用する。(第7条)
【強行法規違反条項の対策】
契約書に強行法規違反条項が残っていると、
契約当事者にとって想定できないルール
が適用されてしまい、
トラブルに発展するリスクが高まります。
こうしたリスクを未然に予防するため、
契約書の作成やリーガルチェックにおいて
強行規定違反条項がないかを
入念に確認していき、
当事者間で修正に向けて協議する
ことが大切です。
※契約書のリーガルチェックについては
以前のコラムで詳しくご紹介しています。
⇒こちら
ちなみに万が一、
強行規定がそのまま残っていたとしても
該当条項や場合によって契約全体は無効
となり、その効力は発生しませんが、
違反条項が残ったままですと、
契約条件も有効なものと無効なものがミックスされ
契約内容が不明確になることが多く、
スマートなビジネスの実現のためにも
チェックは欠かせません。
また、強行規定によっては、
行政処分や罰則も存在することも
十分に注意をはらっておきたいところです。
【強行規定チェック⇒契約のワンランクアップ】
私たちの日常にあふれるさまざまな契約に
作成される契約書はさまざまな法律が関わり、
それら法律には強行規定があります。
契約トラブル防止策としても、
またコンプライアンス遵守策としても
高く機能します。
規定の概要と代表ルールを知っておくことで
契約書作成やリーガルチェックの精度が増し
ビジネス場面における対応クオリティ
にもつながるでしょう。
強行法規とされている法律を知り、
法律に準拠した契約書を手にしたいところです。
WINDS行政書士事務所は
契約書面のリーガルチェックやコンサルタント
などを通して、
事業者の皆さまをサポートしております。
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