コラム

【どこに設定すればいいの?】合意管轄裁判所

2024.05.08[契約]





【契約のラストピース!管轄裁判所】

こんにちは。西新宿の行政書士、田中良秋です。
ビジネスや手続きに必須といってもいい
契約書が完成するにあたっては、
一般的に最後の条項に
合意管轄裁判所が設けられますが、
契約当事者として、
適切に交渉し、記載まで確認されている方は
意外に少ないかもしれません。

管轄裁判所の条項は、
なにげなく設定されているようで
じつはさまざまな意味を持ちます。
当事者として不利な裁判所に合意してしまうと
万が一裁判となった場合、
思わぬダメージを受けることになります。

今回は
契約におけるラストピース的事項である
合意管轄裁判所と適切な決め方について
解説します。

【裁判の「合意管轄」】

合意管轄裁判所を定めるにあたって
重要なのが、管轄を理解することでしょう。

管轄とは、
特定の事件について裁判をするときに、
日本国内のどの裁判所が裁判をするか
を定めることを言います。

訴えは、被告の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所の管轄に属する。
2 人の普通裁判籍は、住所により、日本国内に住所がないとき又は住所が知れないときは居所により、日本国内に居所がないとき又は居所が知れないときは最後の住所により定まる。
3 大使、公使その他外国に在ってその国の裁判権からの免除を享有する日本人が前項の規定により普通裁判籍を有しないときは、その者の普通裁判籍は、最高裁判所規則で定める地にあるものとする。
4 法人その他の社団又は財団の普通裁判籍は、その主たる事務所又は営業所により、事務所又は営業所がないときは代表者その他の主たる業務担当者の住所により定まる。
5 外国の社団又は財団の普通裁判籍は、前項の規定にかかわらず、日本における主たる事務所又は営業所により、日本国内に事務所又は営業所がないときは日本における代表者その他の主たる業務担当者の住所により定まる。
6 国の普通裁判籍は、訴訟について国を代表する官庁の所在地により定まる。
(民事訴訟法第4条)


法律では、この管轄について
次の4パターンが定められています。
管轄パターンがこの中から定まることによって、
どの裁判所がどこまでの範囲で
手続きを処理できるか

ということも定まることになります。



もちろん、法律上では①②④のように、
万が一トラブルになった際に
そのトラブルのの性質や
当事者間の公平や便宜を考慮して
各裁判所にその役割が配分されるものの、
当事者が契約で定める、
③合意管轄
が一般的に定めることができ、
このパターンで定められた裁判所が
管轄裁判所となります。

当事者は、第一審に限り、合意により管轄裁判所を定めることができる。
2 前項の合意は、一定の法律関係に基づく訴えに関し、かつ、書面でしなければ、その効力を生じない。
3 第一項の合意がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは、その合意は、書面によってされたものとみなして、前項の規定を適用する。

(民事訴訟法第11条)




【ビジネスでの影響大!「合意管轄」】

当事者間で管轄裁判所を決めて
契約書に記載する合意管轄が、
実際のビジネスにおよぼす影響は大きく、

その影響は、
次のふたつの視点から見ると
わかりやすいでしょう。

①契約書への明記
もし契約書に
合意管轄を定めた条項を設けなかった場合
取引相手はその本社所在地で訴訟の提起が可能
になります。
そうすると、もし、
事業者と取引先のオフィスが遠距離
であった場合
事業者は取引先のオフィス管轄エリアで
裁判対応をしなければならない

ことになり、
その分の時間と労力の負担がかかる
ことになります。


②有利な合意設定
たとえば、合意管轄を適当に定めた結果、
万が一トラブルから裁判に発展した場合に
その裁判にかかるコストや作業負担が大き過ぎて
裁判そのものをする意味がなくなってしまう

というケースも、十分にあり得ます。

適切に合意管轄を定めておくことで
万が一のトラブルにおいて
対応労力やコストを最小限に留めつつ
後続対応がしやすくなる
でしょう。
 



【契約書への記載ポイント】

管轄の4パターンで説明したとおり、
合意管轄にはさらに
専属的合意管轄と付加的合意管轄
に分かれますが、
提訴できる裁判所の範囲も異なります。
そのため、
万が一のトラブル対応を
スムーズに効率的におこなうためにも、
実際に契約書にその合意事項を定める際は
専属的合意管轄であることを明記する
ことが重要と考えます。



この専属的合意管轄とする前提で、
私が行政書士の目線で望ましいと考えるのは、
契約書への記載方法です。

1⃣「第1審」における合意管轄
日本では、
第1審裁判で不服がある場合、
続く第2審、第3審まで裁判ができます
(三審制)が、
法律上、
合意管轄裁判所を定められるのは第1審だけ
とされています。

当事者は、第一審に限り、合意により管轄裁判所を定めることができる。
(民事訴訟法第11条)

そのため契約書での合意管轄条項には
第1審についての合意管轄であることを記載
しましょう。

2⃣「専属的」合意管轄
冒頭でお伝えしたとおり、
契約書には専属的合意管轄であることを明記
しましょう。
契約当事者双方が東京都に本拠を置く場合は
東京地方裁判所で裁判を行うことを合意のうえ、
東京地方裁判所のみを専属的合意管轄裁判所
などと記載します。
料金請求や債権回収の際に、
その対象金額が60万円以下の少額訴訟を見据えて、
その裁判所を
東京簡易裁判所または東京地方裁判所
と記載するのも良いでしょう。
裁判所:少額訴訟

3⃣合意管轄「範囲」
合意する管轄裁判所の設定と同時に、
その裁判所で
どのようなトラブルについて合意管轄とするか
を定めることも、重要です。


合意管轄条項は
一定の法律関係に基づく訴えに関してすることで
その効力が発生します。
そうすると、
契約書で訴訟についての合意管轄を定めていても
訴訟ではない手段での解決方法(=調停や話し合いなど)
がとられた場合、
合意管轄条項は適用されない

ことになります。
※調停は勝ち負けを決めず、
 和解成立に向けた話し合いの制度であるため
 訴訟とは異なる制度となります。


前項の合意は、一定の法律関係に基づく訴えに関し、かつ、書面でしなければ、その効力を生じない。
(民事訴訟法第11条2項)


このことから、合意管轄条項には、
適用するトラブル範囲を「一切の紛争」
と設定するなど

調停手続きも含め合意管轄対象と明記する
と有効でしょう。
※上記の記載方法が
 必ずしも有効と言えない場合もあります。

 ⇒当事務所までご相談ください。

4⃣自分(自社)に有利な合意管轄
契約相手とトラブルになった結果
裁判などの対応が必要となった場合、
当事者としてはご自身に有利な合意管轄
を定めることが大切です。

先ほどの2⃣でも挙げていた規定パターン
以外としては、たとえば、
顧問弁護士や重要な取引先が
自分(自社)の本拠地エリア外にいる場合

などが挙げられます。
この場合は、
今後のビジネスの見通しや
効率的な法的措置の実現性を考えた記載
で合意管轄事項を定めておく

ことが良いでしょう。




【そのほかの注意事項】

当事者で契約を取り交わすそのときでも
ビジネスは絶えず展開していきますので、
さまざまなシチュエーションに合わせて
合意管轄事項に反映する必要があります。

いくつかのシチュエーション別対応を
次のとおりおすすめしたいと思います。

①オフィスの移転
契約締結タイミングの前後で
ご自身のオフィスが移転する場合、
設定する合意管轄裁判所がそのままとなれば
将来的に不利な条件となるおそれがあります。
対応としては、
〇〇株式会社(=自社)
の本店所在地を管轄する〇〇裁判所

などの記載にすることができるでしょう。

⓶登記上と実際の所在地違い
たとえば
登記簿上の本店が鳥取県であるが
現在稼働している自称本社は東京都
といったケースも
昨今よくあるパターンですが、
この場合は、
稼働オフィスの所在地を管轄する裁判所を明記
することが適切と考えます。

③合意自体に対する方針
じつは、
自分から契約書に合意管轄条項を設けない
方がベターな場合もあります。

たとえば、
自分から有利な合意管轄条項を定めた
契約書(案)を用意した結果、
反感を買ってしまい交渉が難航しそう
相手先に有利な遠方の裁判所を
合意管轄条項に指定、修正記載を求められる

などのケースが挙げられます。
このような場合は、
契約書(案)にあえて合意管轄条項を記載せず
十分な協議をして公平性を担保する

ことも検討したいところです。
※シチュエーションによっては
 合意管轄条項のない契約書
 とする事例もあります。



【契約のその後を見通した合意管轄設定を】

契約の取り交わしにおいて、
万が一に備えてる、合意管轄裁判所。
契約のタイミングや条件などに応じて
押さえるべきポイントをふまえつつ
適切に定めることができれば、
トラブルの予防だけでなく
トラブル発生の際のスムーズな解決
にも大きく役立ちます。


WINDS行政書士事務所では、
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