コラム

【受ければ損しかない】行政代執行

2023.11.15[行政書士・業務]





【身近な?行政の代執行】

こんにちは。西新宿の行政書士、田中良秋です。
国が国民に対して強制的な措置をとる、
行政代執行を皆さまはご存じでしょうか。
巷では、
さまざまな事案がこの措置の対象となり
ニュースでも取り上げられています。
また最近では
テレビドラマの題材にもなるなど
私たちの間でも関心が高まっていますので、
メディアや世間話で耳にされたことのある方も、
いらっしゃるのではないでしょうか。
テレビ朝日:シッコウ!!~犬と私と執行官~

行政代執行の制度の成り立ちと
執行対象となる要件や手続きプロセス、
私たち国民に与える影響などを解説します。




【行政代執行の要件】

行政代執行とは、
国民が行政機関の命令に従わない
または義務を履行しない場合、
行政上の目的が果たされるために
法律に基づいて
その国民の代わりに
課せられている義務を強制的にする手段

をいいます。



行政上おこなわれる強制手段としては、
さまざまなシチュエーションにおいて
このようにカテゴライズされますが、
行政代執行は、
直接的な強制手段のひとつとなります。



行政上の義務の履行確保に関しては、別に法律で定めるものを除いては、この法律の定めるところによる。(行政代執行法第1条)

※行政刑罰及び行政上の秩序罰、
 民事訴訟などは、

 ③の手段に含まれません。
※ここでいう法律とは、
 法律の委任に基づく命令、規則、条例
 のほか、
 自主条例も含むと解釈されています。


行政代執行の対象となる義務は、
行政機関や行政庁の命令などに
従わない、応じない場合
法律に基づいて直接命ぜられるものです。
これら命じられる義務は
あくまで、
公共の利益
となるために
その義務がある国民の代わり
(=代替的作為義務)

おこなわれるものでなければならない
ことです。



行政代執行の対象となる義務は、
次にあてはまるものとなります。



行政代執行をおこなうためには、
法的な根拠が必要です。
法的な根拠が求められるのは、
日本で私たちの人権が
公共の福祉に反しない限り
尊重しなければならないからです。
したがって、
公共の福祉に明らかに反する代執行は、
権利の濫用
となり認められません。

すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。(日本国憲法第13条)




【代執行ができるのは行政機関だけ!】

行政代執行は
国や自治体だけがおこなえる措置

で、
命じられた義務を履行しない国民に対して
別の国民が
その義務に対する権利を持っていた
としても、代執行はできない

ということになります。

私法上、別の国民が
たとえ自分の権利を確保するため
であったとしても、
自身の都合だけで勝手に義務を履行
(=自力救済)しようとすれば、
そのほかの人々の生活の安定を脅かす
おそれがあり、許されない

と考えられているためです。
※刑法でも同様の考えかたとして、
 かたき討ちなどの私的復習は
 認められないこととなります。




そうすると、
権利を侵されていながら
代執行権限がないその国民が
とれる手段
はあるのでしょうか。
これに関しては、
裁判所に対して訴訟を提起したうえで
受けた判決によって
民事執行法にのっとった強制執行手続き

によって
義務の履行を確保できると考えます。

そのほか、
国や自治体以外の国民が
やむを得ず義務の強制履行を認められる
形として、正当防衛などがあげられます。
たとえば、
ある人に建物の明け渡しを求めている間
近隣で火事が発生し、
近所の人がとっさにその建物を撤去する
といったものなどです。
この場合、
その近所の人に対して違法性は追及されない
違法性の阻却といいます)
ことになります。
※違法性の阻却は認められても、
 積極的に義務を強制履行していい
 というわけではありません。





【行政代執行の発生事例】

行政代執行の決定を受け
実施されたもののほとんどは、
土地や不動産の移転や工事に関連
しています。

これらは、
直接対象となる不動産に関わる工事もあれば、
間接的に関係する不動産の工事
1種類の工事のために要する複数工事
といったものもパターン化されてきています。
総務省:各自治体の行政代執行取り組み事例

最近話題になった事例としては、
沖縄米軍基地移転先の工事承認
ビーチに放置された海の家の撤去工事
などが、記憶に新しいところです。
NHKの報道
毎日新聞の報道




【行政代執行のプロセス】

行政代執行は、
次のようなプロセスを経て実施されます。



これらプロセスは、
法令上必要とされている手続きとしての
処分に該当します(=不利益処分対象外)。

そのため、事前手続きは不要とされます。

代執行の実施においては、
義務者が特定できずともおこなえたり、
戒告や代執行令書の発布を経なくとも
緊急的におこなえるルールも存在します。


納付命令は金銭債権となります。
この債権に関しては
強制的に徴収できるものとそうでないもの、
ケースバイケースとなります。

※戒告や代執行令書は行政処分と認められます。
※代執行令書の送達は、
 着手前であればいつでもOKとされています。





【大ダメージ!代執行費用の負担】

国民が行政代執行を受けることによって
受ける大きなダメージはやはり、
代執行にかかった費用の負担でしょう。

たとえば、
ある不動産の撤去工事が代執行される場合、
義務者である国民が
なにもアクションをおこさなければ、
国や自治体の職員が業者を選定し
不動産の解体や撤去の手配をします。

またこれら費用は
国や自治体がいったん立て替え、
後日国民に請求されます。

請求費用は、税金として扱われ、
税金債務と同様に回収される

ことになりますが、
コストパフォーマンスよりも
スピーディな実施を重視
する傾向から、
国民が想定するよりも高くなる
可能性が否めません。
また、
もし国民が支払いを滞納すれば、
不動産の差し押さえや競売

につながってしまいます。




【代執行予防or受けたときのアクション】

行政代執行を受けることが
いかにダメージが大きいことかが
わかりますね。
国民としてはやはり
代執行を受けることは避けたいものですね。

行政代執行を受けないための対応、
また万が一受けたときのアクションを
3つにまとめました。

①実施対象にならない
代執行を受けないためにはやはり
行政から行政代執行の対象にマークされない
ことがベストでしょう。

たとえば
所有する不動産が
行政代執行対象にならないために
適切な不動産を管理が重要です。

不動産が空き家となってしまった場合は、
老朽化する前に処分
管理の負担増を考慮した売却

などの検討が有効です。

②行政指導にしたがう
たとえば、
所有する不動産が国や自治体の行政指導対象
になり、指導、なんらかの要請を受けた場合は
所有者はその行政指導に素直にしたがうべき
でしょう。

行政代執行のトリガーとなる命令
にいたるまでには、
助言→指導→勧告→命令
の4つのステップをふみますが、
そのうちの勧告の段階からは
納税特例対象外とされてしまう

などの具体的な制裁もスタートしてしまいます
ので、
前段階の指導までに何らかの対応をおこなう
ことが大切と考えます。

③自費でアクションする
これは避けたいことですが、
所有する不動産が行政代執行対象となった
場合は、
代執行が実際におこなわれる前に
自分で費用負担し、対応を済ませる

ことも有効です。
解体や撤去工事、廃材の処分にかかる費用
が想定よりも高くなれば、
不動産所有者の経済的ダメージとなります。
コストできるだけ安く抑えるために
施工会社を検索
複数社から相見積もりをとる

行政の介入前に
国民が直接業者に依頼し、直接手配する

といった対応をとりたいところです。




【行政代執行とならない対応、管理を】

行政代執行は、義務が果たされるため、
そして公共の利益のための
最終行政対応手段で、
段階的に、強制的に進められます。
代執行対象となった国民は、
想定外の対応や費用負担を強いられ、
経済的、精神的に大きなダメージ
にもつながることから、
最も避けるべき事態といえます。

行政代執行がされないためにも、
普段から実施対象とならないように
努めていきましょう。