【2025年10月スタート!】公正証書遺言のデジタル化
2025.09.30[遺言相続]

【公正証書遺言のデジタル運用が10月からスタート】
こんにちは。西新宿の行政書士、田中良秋です。
遺言書において公証人の公証を得る場合、
公証役場で公正証書遺言を作成
する必要があります。
この手続きは従来、
公証役場で対面でおこなわれ
書面作成が必須
であるところ、
今年10月から、法改正施行により
インターネットの活用が可能となります。
公正証書作成のデジタル化によって
ご高齢やご病気、遠隔地などを理由に
公証役場に出向くことが難しかった方でも、
今後はご自宅や施設などから
スムーズに遺言書作成手続きができ、
非常に便利になります。
本コラムでは
いよいよ本格スタートが明日にせまる
デジタル公正証書遺言の仕組みやメリット、
注意点など重要ポイントを
行政書士が解説します。

【従来の公正証書遺言手続き】
そもそも公正証書とは、
法律行為や私権に関する事実について
公証人が作成する証書
を指し、これを、
- 遺言者が公証人に口頭で遺言を伝え
- 公証人がその遺言内容を書面化
- 公証役場で正式に保管
するもので、
遺言書をはじめ、
任意後見、金銭消費や賃貸借契約、売買などの
ビジネス契約においても利用されています。
この書面の強みとして、
- 公文書としての高い証明
- 公正・中立な第三者機関による厳重な管理
- 裁判所で強制執行ができる(=執行力)
が挙げられ、
私的な紛争防止、法律関係の明確化・安定化
に資するとされ
安全性と信頼性が高く担保されている制度
と言えます。
※公正証書遺言を含む
遺言書作成の3形式については
以前のコラムで解説しています。
※執行力が発生するのは、
金銭支払などが目的で
債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述
がされた場合
に限られます。
現行の公正証書遺言の手続きは、
以下のように進められます。

遺言者本人は公証役場まで出向き
公証人など関係者との対面が原則
であり、
証人の確保や書面化運用
といった特徴があります。
そのため、
手間や時間がかかり
ご高齢の方や遠方の方にとっては
負担が大きい
のも事実です。
※遺言における制度利用者においては
死亡者に対して1割にも満たない
ことが統計からも明らか、
課題認識されてきました。
⇒法務省:2024年3月研究会報告書
※法務省において
法制審議会民法(遺言関係)部会が設置され
現在は公正証書遺言に続き
自筆証書遺言についてもデジタル化に向けて
検討が重ねられていることが話題
となっています。

【いよいよ本格始動!デジタル公正証書遺言】
日本の法律上、
動画やメールなどで作成された遺言書は無効、
LINEなどのSNSで残した故人のメッセージも
意思として認められません。
そこで、
正当な遺言書として認められるためには、
自筆証書・公正証書・秘密証書
の3種類いずれかの形式で作成される必要
がありました。
この状況から、
遺言書作成におけるデジタル活用が
手続きの簡便さにつながると考えられ
法務省は2021年6月、
規制改革実施計画を閣議決定、
これに基づき、
公正証書全体の作成に係る
一連の手続きのデジタル化を目指してきました。
これを受けて
一般的に手間と時間がかかる
公正証書遺言作成においてもその負担を軽減し、
より多くの人が
遺言書の作成と公証を受けやすくする
ことを目的に、
民事関係手続等における
情報通信技術の活用等の推進を図るための
関係法律の整備に関する法律
(令和5年法律第53号)
が成立、
その一部として
公証人法の改正
そして公正証書遺言方式を定めた
民法の規定(民法第969条)の変更
がなされました。
こうした体制の整備を経て
いよいよ明日、
10月1日より
公正証書手続きのデジタル化
(オンライン作成、電子署名、データ保存)
が本格導入
となり、
これまで対面が前提であった
公正証書遺言作成手続きの一部が
オンラインで実現します。
<法務省:公正証書作成手続きのデジタル化>

公正証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。
1 証人二人以上の立会いがあること。
2 遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること。
3 公証人が、遺言者の口述を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ、又は閲覧させること。
4 遺言者及び証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名し、印を押すこと。ただし、遺言者が署名することができない場合は、公証人がその事由を付記して、署名に代えることができる。
5 公証人が、その証書は前各号に掲げる方式に従って作ったものである旨を付記して、これに署名し、印を押すこと。
(民法第969条)
<法務省民事局:デジタル公正証書手続き概要>

※法務省:民事関係手続等における情報通信技術の活用等の推進を図るための関係法律の整備に関する法律について
※公証役場へ直接出向き
紙で公正証書遺言を作成する
従来フローの選択も
引き続き可能です。

【デジタル公正証書遺言のメリット】
公正証書遺言がデジタル作成できることは
非常に大きなメリットがあります。
行政書士の目線から、
デジタル公正証書遺言のおもなメリットは
次の3つと考えます。
①移動負担の解消
インターネットを活用した公正証書作成
によって
遺言者や付添人などの関係者が
必ず公証役場に行かなくともよくなり、
移動負担が最小限に抑えられます。
ご高齢やご病気のため外出が難しい方、
また最寄りの近くに公証役場がなかったり
地方など遠方の方でも、
遺言書の作成がしやすくなるのは
うれしいですね。
ちなみに、
公正証書遺言の作成自体は
全国どこの公証役場で依頼してもOK
ですので、
公証人の相性などを気にされる方
にとっても有効と考えます。
②スケジュール調整がフレキシブル
手続きが対面であったところ
オンラインで実現することでたとえば、
遺言者本人、証人、公証人が
それぞれ別の場所にいても
遺言書の作成手続きができる
ため、
関係者全員が
同じ日時、同じ場所に集まる
必要がなくなります。
そうすれば、
関係者の手配やスケジュール調整も
格段に簡単になり、
より柔軟に早い手続き完了が期待できます。
従来フローでかかると見越していた時間を
終活やそのほか遺言者が希望するアクション
に活用しやすく、
物理的・心理的両面のハードルも低くなるでしょう。
③作成、保管の安全性アップ
従来フローでも
公正証書の原本は公証役場で厳重に管理
されますが、
デジタル手続きを採用することで
電子データとしてより安全確実に保管されます。
これによって、
災害などに対する
紙書面ならではの保管・管理リスクが低減
されます。
また、
公証人は紙への署名や押印に代わり
電子署名を付与することになるため、
データ改ざん防止がクリアな形で証明
でき、安全性も格段にアップします。
※デジタル公証制度は
商取引分野で先行導入されており、
遺言書への運用展開はそれら運用の応用形
といえます。
※現行の紙書面手続きでも
遺言者の同意があれば
公正証書原本を電子データとして保存OKです。
④管理効率アップ
遺言書の作成がデジタル化される
ということは、
紙へ手書きや印字ではなく
パソコンやスマートフォンで入力となるため
ペーパーレスで管理しやすくなる
と言えます。
公証人が付いてくれているとはいえ、
相続人や財産目録の作成、その後の修正
といった面倒な作業が立て込みますが、
③でご紹介したような電子データ保管によって
遺言書自体の管理も簡単に、確実となります。
形式の不備も防げれば
相続時に遺言書の確認作業もスムーズに進む
ことにつながります。

【こうやって作成する!デジタル公正証書遺言】
公正証書遺言作成手続きのデジタル化で
遺言者は公証役場には出頭せず、
WEB会議や電子署名を利用、
その証明書は電子データでの受領
することが可能となります。
<法務省:デジタル公正証書作成手続き>

具体的な手続きの進め方は、次のとおりです。
①公正証書の作成依頼(=嘱託)
公正証書の作成依頼(=嘱託)は、
従来の公証役場への出頭&印鑑証明書など提出
に代わって
インターネット利用&電子署名で完結し、
わざわざ公証役場に出向く必要がなくなります。
<法務省:不要となる公証役場出頭>

②嘱託人陳述、内容確認
公正証書遺言のキモとなる作業が
公証人から依頼人=嘱託人への
陳述聴取や真意・内容正確性の確認
です。
これは、
遺言者が公証人に遺言の趣旨を
直接口で伝える必要があり
代理人による代行は認められません。
が、
デジタル化によって、
嘱託人が希望し
公証人が相当と認める場合、
これら作業はWEB会議でおこなう
ことができます。
このときには、
顔認証技術などを用いた
eKYC(オンライン本人確認)を導入予定
されています。
<法務省:WEB会議での手続き>

<法務省:電子データ作成&電子サイン>

公証人証書ヲ作成スルニハ普通平易ノ語ヲ用井字画ヲ明瞭ナラシムヘシ
② 接続スヘキ字行ニ空白アルトキハ墨線ヲ以テ之ヲ接続セシムヘシ
(公証人法第37条)
公証人ノ作成スル証書ニ他ノ書面ヲ引用シ且之ヲ其ノ証書ニ添附スルトキハ公証人其ノ証書ト添附書面トノ綴目ニ契印ヲ為スコトヲ要ス
② 前三条ノ規定ハ前項ノ添附書面ニ之ヲ準用ス
③ 前二項ニ依ル添附書面ハ公証人ノ作成シタル証書ノ一部ト看做ス
(公証人法第40条)
<法務省:リモート方式による公正証書作成>


※事前相談やドラフト作成におけるやりとりは、
従来フローでもオンライン対応事例があり、
この点はデジタル化においても変更はありません。
③公正証書遺言書の作成・保存
従来フローでは
公正証書原本の作成・保存において
依頼者(嘱託人)と公証人の署名と押印が必要
であったところ、
デジタル手続きにおいては
原則、電子データで原本が作成・交付、保存
されます。
嘱託人の署名と押印においては
電子署名での意思表示
が可能になり、
本人性と非改ざん性を担保する技術的基盤
によるペーパーレスが実現します。
作成されたデジタル公正証書遺言内容は
公証人⇔嘱託人間の意志&本意確認
Zoom Meetingなどの
ビデオ会議ツールを利用した
公証人との正式な面談の実施
公証人による遺言内容の読み上げによる
ファイナルチェック
などといったステップが踏まれます。
ちなみに、
2名以上の証人立会いについては
従来フローと同様必要ですが、
その立会い方法は
依頼者(嘱託人)と同席
別オンライン回線での参加
いずれでもOK
とされています。
<法務省:電子データでの作成・保存>

<法務省:電子データ閲覧・受領>

ご紹介した一連の手続きを
従来フローと比較してみました。
手続きをデジタライズしても
従来の紙書面と同様
法的効力の強さは変わらない
ことから、
大きな利便性アップは疑いようがありません。

一方、デジタル化導入にともなって
公正証書作成手数料は改定されます。
<法務省:公正証書作成手数料>


【それでも気を付けたい!デジタル公正証書遺言の注意点】
国の制度推進により
公正証書遺言のデジタル化は
効率的でメリットのある画期的アクション
であることがわかりましたが、
新制度であるからこその注意点があります。
行政書士の目線から、
私がデジタル公正証書遺言の活用において
十分に注意すべきと考える点を4つ、
ピックアップしてみました。
①確証が問われる遺言者の真意
遺言者本人が依頼人=嘱託人となり
従来フローにしたがって
公証人役場に出向き作成する場合、
その場に立ち会えるのは
本人・証人・公証人だけであり
家族や第三者は介添えも含め
原則として
嘱託人のそばにいることができません。
非常に厳しく思われるかもしれませんが、
このアプローチであるからこそ、
第三者介在のシャットアウトや
遺言者の真意尊重
ができていました。
しかし今後
デジタルフローで作成を進める場合は
遺言者の隣や後ろに隠れる第三者によって
遺言させられていないか
端末から簡単に遺言入力できることで
本人へのなりすましなどはないか
などといったリスクとも
向き合わなければならないでしょう。
WEB会議を活用する際の
デジタル技術の駆使ができるからこその
AIor音声合成技術の悪用
などのリスクも高まってくるでしょう。
遺言書が
本当に遺言者本人の意思によるものか
といった
信頼性確保のため、
本人確認についてのさらなる措置
についても十分に注視する必要性を感じます。
②金融機関の相続手続き
電子データ保管される
デジタル公正証書遺言は
その後の相続手続きにおいても
オンラインなどを用いて利便性を発揮する
ことがわかりますが、
手続き窓口が金融機関(銀行や郵便局)
であった場合の
口座手続きにおける利用手続きは
今後の課題と言えるでしょう。
たとえば、
デジタライズされた遺言書でも
金融機関の手続きプロセスに親和性がなく
あえて紙出力しなければならない
or手続きとして受け付けられない
などのシチュエーションが予想され
金融機関側でデジタル遺言に対応しているか
が懸念されます。
③遺言者のネット利用環境
デジタル手続きとして欠かせないのが
安定したインターネット回線や
パソコンなどの端末です。
※スマートフォンやタブレットは
画面共有ができないためNGです。
また署名の代わりにデジタルサインするため、
タッチパネル、
カメラ機能付きのディスプレイorペンタブレット
ZOOMやGOOGLE MEETなどのオンラインツール
を準備しなければならず、
すべて準備が整っているとしても
遺言者本人のスキルや慣れといった
ITリテラシーの有無、セキュリティ対策
などが立ちはだかります。
遺言者がこうした課題に
不安を感じないための準備や対策としては、
ご家族や専門家によるITサポート
が不可欠です。
もしどうしても
不安がぬぐえないようであれば、
従来通りの紙作成プロセスの採用
自筆証書遺言などの再検討
も選択肢としてあるでしょう。
また、
情報通信のSSL暗号化やブロックチェーン
などの情報保護テクノロジー
なども考慮に入れ、
該当するセキュリティ対策も重視しましょう。
※当事務所代表行政書士は
デジタル推進委員としてITサポートを承ります。
⇒ご相談ください。
※こちらのコラムで
デジタル推進委員についてご紹介しています。
④デジタル対応可能な公証役場
公正証書遺言作成のデジタル化は
明日2025年10月1日からスタート
しますが、
同時にすべての公証役場で対応可能
となるわけではなく
一部指定公証人のいる公証役場限定
でスタートする
ことに注意しましょう。
また、
指定公証人のいる公証役場で作成対応可能
であったとしても
新制度であるがゆえに、
予期せぬオペレーションの不具合、遅れ
などのリスクも考慮すべきと考えます。
※法務省:電磁的記録事務指定公証人一覧

【デジタル公正証書遺言で新たな相続手続きの幕開け】
これまで書面化やご足労などの手間から、
敬遠されることも多かった、公正証書遺言。
デジタル化導入で利便性が高まり、
明日からは
ますます身近な手段となっていくでしょう。
しかし一方、
すべての皆さまにとって簡単・便利とは限らず
遺言者側でも慎重に検討・対応すべき課題
も残ります。
遺言書を紙とデジタルのどちらで残すか
公正証書の形式がフィットしているか
などの点をチェックすると同時に、
デジタル活用できる環境や準備も十分に整える
ことが大切です。
WINDS行政書士事務所は、
今回ご紹介しましたデジタル公正証書や
相続における諸手続きにおいて
カウンセリング、サポートを承ります。
時代の変化ともいえるこの制度改革を
専門家を活用して上手く取り入れ、
安心安定の相続に向けたファーストステップ
を一緒に踏み出していきましょう。
